A2:図々しさが増してきた。
それは、ある日曜の朝だった。掃除も私が基本的にするので掃除機をかけていると、背後から鉄二の声がする。
「祥子、僕の黒のパンツ知らない?」
「え?今日洗濯して乾燥機に入れたはずだけど…」
「クローゼットの中になくて」
言われてみれば、乾燥機に入れたままだった。乾燥はもう終わっているので、出来上がってはいる。けれども私がいつものように、畳んだりハンガーにかけた状態でクローゼットの中に入れられていなかった。
「あ、ごめん。まだ乾燥機の中に入れっぱなしかも」
すると、鉄二は当然のようにこんなことを言ってきた。
「後で、いつもの所にかけておいてもらっていいかな?午後出かける時に穿きたくて」
― いや、それくらい自分ですれば…?
子どもじゃないのだから、もう洗濯も乾燥も終わっている自分の物を、自分のクローゼットに入れるくらいできないのだろうか。
そして段々、会話の量も減ってきた私たち。それだけではない。
「てっちゃん、あのさ」
「ん?ちょっと待って。今テレビ見てるから。後にして」
― カチン。
イラっとする自分の音が、聞こえた気がする。二人で食事中にテレビを見るのもどうかと思うけれど、私との会話よりテレビを優先する鉄二の気が知れない。
「祥子って、本当にいつもタイミング悪いよね」
しかも言い方まで腹立たしい。段々と、彼は私に対して“努力”をしなくなっていくのが目に見えてわかる。
言い方もキツいし、とにかく今のこの関係にあぐらをかいているようにしか思えない。
「そんな言い方しなくても…」
「で、何?」
「てっちゃん、私の化粧水使ってる?」
そしてもう一つ。細かいことだけれど、前々から洗面台の扉を開けるたびにげんなりしていることがあった。
「そんなこと?うん、使ってるよ。あれいいよね」
鉄二が断りもなく、私の化粧水やパックを使っていることだった。
自分でも、ちょっと細かいかなと思うし、こんなことで怒るのも間違っているのかもしれない。でもこれにはちゃんと理由があった。
家賃も全体的にも私の方が支払いが多い上、家事も私がほぼやっている。
そのうえ、私が大事に使っている化粧水を、無断で自分の物のように使う鉄二の態度は、図々しく感じてしまう。
「あの化粧水、美容クリニックで買ってるやつだから結構高いんだよ。私だって大切な日の前日にしか使わないのに」
「そうなんだ。だからいいんだね」
「もう一回言うけど、あれ大事にしてるんだからね?」
そう言っても、本人はまったくわかっていないし、気にしていない。
「牛乳だってシェアするしね」
「牛乳と化粧水は違わない?」
「ほぼ一緒だよ」
牛乳と高級化粧水ではわけが違う。
正直、これは些細なことの一つに過ぎない。
とにかく鉄二と同棲して感じたことは、彼が私の気持ちを理解してくれないということだ。
“親しき仲にも礼儀あり”というけれど、相手に対する思いやりとか、感謝の気持ちとか。それらがなくなったら関係性は崩れていく。
私たちはまだ結婚をしていない。
それなのに既に自分勝手な鉄二を見て先が思いやられ、私は一旦冷静になって関係性を考えることにした。
▶【Q】はこちら:結婚前提の同棲だったのに、わずか9ヶ月で破綻。些細なことだが、女が許せなかったコト
▶1話目はこちら:「この男、セコすぎ…!」デートの最後に男が破ってしまった、禁断の掟
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デート中に言ってはいけないワードとは?
この記事へのコメント
この男、今回の同棲で相当貯金出来ただろうね。