A2:ママの役割はいい。でもあなたの面倒はもう見たくない。
でも、私たちは家族だ。だからそんな違和感を抱えたところで意味はない。
それに私は結婚している。母であり、妻だ。そういう役割を担っている。
― こんな不満、持つことがおかしいよね。
交際当時は日系の証券会社勤務だったけれど、今では外資系のコンサル会社に転職し、さらに給料が上がった鉄二。生活は全部面倒をみてくれているし、私が文句を言える立場ではない。
しかし忙しくなった鉄二は出張も多くなり、そのたびに荷造りなどは私がすることになっていた。
「明日の出張の用意、お願いしていい?」
「わかった」
準備だけではない。帰ってきてから荷物を解いて、洗濯して、それを畳んでしまうのも私の仕事だ。
それも、妻だから仕方のないこと。
「これは、妻の役目だから」
何度も何度も、自分にそう言い聞かせていた。
あと鉄二は家に帰ってからの晩酌が好きだった。もちろん、食事の用意は私がする。それは家にいるから当然のことだ。
「本当に助かる、ありがとう。夏希はいい妻だな」
毎回、鉄二はちゃんとお礼を言ってくれた。それはとても救われるけれど、鉄二は本当に何もしない。
「そういえば、冷蔵庫のビール切れてるかも」
「そうなの?補充しとかないとだね」
「うん、頼んだ」
― ビールの補充すらできないの?
「私は華恋以外に、大きな子どもを育てている」。
そう割り切って生活することで、私はどうにか自分を保てていたのかもしれない。
でももう耐えられなくなったのが、私がこの日、仕事復帰を切望した際の鉄二の態度だった。
「夏希は?飲まないの?」
「じゃあ一杯だけ。そういえば、そろそろ仕事復帰しようかなと思って」
そう言うと、鉄二は心底驚いた顔をした。
「そうなの?なんで?華恋だってまだ小さいんだし、母親が側にいてくれた方がいいんじゃないの?お金は僕がなんとかするし」
― この家に私の人権は、ないのだろうか。
母としての役割を担えるのは本当に幸せなことだし、娘は私の人生において何よりも大事な存在。娘ファーストだし、それは変わらない。
でも自分の居場所が欲しい。家庭以外に、自分の居場所が必要だった。
「うん、それは感謝してる。でも金銭面のことじゃなくて、私もそろそろ復帰したいなと思って」
「そうなんだ…」
「大丈夫。華恋の送り迎えとかには支障がないようにするし、今までのように家のことはするから」
「それだったらいいんじゃない?」
結局は仕事復帰を認めてくれたが、現実は、そんなに甘いものではなかった。
仕事をしながら子育てをし、食事を作って家事をする…。それは想像以上に大変だった。
でも、朝に家を出る前に夕食の下準備をしたり、週末に作り置きをしたり…。「手を抜いている」と鉄二に言われないように最大限に努力していた。
しかし鉄二は、作り置きをまったく食べない。
さらに家事をアウトソーシングしようとすると、鉄二は信じられないようなことを言い始めた。
「それだと本末転倒じゃない?稼いだお金で家事をアウトソーシングって…もったいなくない?」
「私のお金なんだから、どう使おうと勝手でしょ?あなたのお金からは出してないんだから」
「そうだけど…」
ここで、私の中で何かが終わった気がする。
私は、華恋の母親だ。でも鉄二の母親ではない。
パパとママとしての関係性は続ける。それは娘のために。でも鉄二の面倒を見て、そして自分を失っていくのはもう耐えられないと思った。
― 自分を取り戻そう。自分の人生を、生きよう。
でももちろん、娘に悲しい思いはさせたくない。それにもう顔を見たくないほど鉄二のことが憎かったり、嫌いなわけではない。
ただもう面倒を見切れない。夫の子守はもうウンザリだ。
だから私は“妻”だけを辞めることにして、三行半を突きつけた。
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彼氏の男友達問題
この記事へのコメント
いやー、そう思う事自体間違っていると感じました。夫のために妻がわざわざ「お母さん」になってあげる必要はないし、育てているのではなく甘やかしていただけですよね。出張の準備?そんな自分の事は自分でできるでしょうとスルーでOK。冷蔵庫のビール切れてるかも? → ラス1取り出した人が補充しないとね で放置。冷えたビールが一つもなければその内自分でやるようになります、出掛ける準備出...続きを見る来てなくて困ったなら次から自分でやらないとと思いますよ幼稚園児でも。 結婚後は家族になるので男女の些細なすれ違いなんて言ってられない。適宜話し合いお互いの意見を尊重しながら生活しないと夫婦関係は破綻してしまうと思います。勿論夫も悪いけれど、妻にも原因は多々ありました!