A2:一度冷めた関係を再構築する難しさを身をもって体感したから。
ただこの日以降、さゆりは度々結婚の話を持ち出すようになった。
「湊。結婚のこと、どう考えてるの?」
交際は3年目に突入し、同棲も2年している。だから、さゆりが言いたいこともわかる。
でも今の心地よい関係をわざわざ壊すような形で、結婚する意味が僕にはわからない。
「ちゃんと考えてはいるけれど、別に今この状況でする必要なくない?一緒にいて楽しいし…何より、さゆりはほぼ家族みたいなものじゃん。そもそもだけど、結婚して、何が変わる?」
「正式な家族になれるんだよ?」
「ただの紙切れ上の約束でしょ」
そうやって、僕は結婚の話が出るたびに拒否してきた。でも今から考えると、ただ逃げていただけのようにも思う。
「状況が特に変わらないならば、結婚してもいいじゃん。なんでそんなに結婚したくないの?」
「何かに縛られるのが怖いんだよ」
「私、別に束縛とかしていないよね?」
さゆりは束縛もしてこないし、どんなに帰りが遅くなっても、お互い無関心。それは自立した素晴らしい関係とも言えるけれど、ある意味もう冷め切ってもいる関係だった。
同棲が3年目に突入するとそれはさらに顕著になり、お互い家で会っても話すこともない。ケンカをしているわけではないけれど、特に話さない…。
そんな悲しい関係になっていた。
そしてさゆりが34歳になった夏。僕が久しぶりに「帰省する」と伝えると、さゆりは「一緒に行く」と言い出した。
「湊が帰るなら、一緒に行ってもいい?ご両親に挨拶もしたいし」
「いやいや、それはいいよ」
「でも、私の両親には会ったのに、私だけご挨拶していないもの変だし…」
「それはさゆりのご両親は東京だからね」
さゆりのご両親とは、会って食事をしたことがある。しかし僕の両親にわざわざ会いに行って挨拶…となると、それはもう結婚だ。
その時に、改めて思った。
もう、僕たちの関係は終わっていることに。
旬はとっくに過ぎ、“同棲”という妥協の中でダラダラと時間を潰しているだけ。お互い、どこかでわかっている。二人の間に、未来はもうないことに。
「あのさ…本当に将来のこと、考えてる?湊はいつも口だけで、私たちの将来のことなんて、何も考えてないでしょ」
「そんなことないよ」
「じゃあなんで、ご両親に私のこと紹介するのを嫌がるのよ?」
「まだ時期尚早というか…結婚が決まったわけではないんだし」
「その態度、何なの?全然私のこと大事に思ってないじゃん」
「何だよそれ。もういいよ、別れよ」
きっかけは、こんな些細なことだった。
でも、長過ぎた僕たちの関係は、こんなことであっけなく終わってしまった。
ただ心の中でどこかほっとしていた自分もいる。もっと早く別れてさゆりにも違う未来を作ってあげるべきだった。
大事にしていたし、好きだったけれど、一度ぬるま湯に浸かった関係を、再度沸騰するまで温め直して結婚まで持っていくのは至難の業だ。
お互いにそんなモチベーションはないし、結婚する意味がないから。
次の人とすぐに結婚を決めた理由?
それは至って簡単で、もう二度と、こんな事を繰り返したくなかったからだ。
大人になるとタイミングがすべてだと思う。仕事のタイミングや出産など、人それぞれにそのタイミングはある。
僕の場合、「次に付き合う人とはすぐに結婚する」と決めてきた。
だから梨花とは、交際する当初から結婚を強く意識していたし、「いいな」と思ったら、同棲なんてすっ飛ばして結婚という道を選んだ。
― さゆりとも、同棲のタイミングで結婚をしていたら、きっと違ったんだろうな…。
そんな、ありもしない現在のことをたまに思う。
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不機嫌な男女
この記事へのコメント
当時は結婚願望がなく一生独身でいいかなとさえ思っていた? ならせめて同棲を始める前にさゆり打ち明けて話しあう必要はあったと思う。 で、最後さゆりと同棲のタイミングで結婚をしてたらきっと違ったんだろうな… はぁあ????