男という生き物は、一体いつから大人になるのだろうか?
32歳、45歳、52歳──。
いくつになっても少年のように人生を楽しみ尽くせるようになったときこそ、男は本当の意味で“大人”になるのかもしれない。
これは、人生の悲しみや喜び、様々な気づきを得るターニングポイントになる年齢…
32歳、45歳、52歳の男たちを主人公にした、人生を味わうための物語。
▶前回:高級料理店に足繁く通う、50代男性と20代美女カップル。ふたりを繋ぐのは、金銭でもときめきでもなく…
Vol.10 女心に怯える、四谷の帰路
大学病院勤務医の32歳、皆川樹の場合
入院患者さんたちの状態を確認するため病棟を巡回し終わると、時刻は19時を回ってしまう。
そこから諸々の作業や、当直の医師への引き継ぎを行い、退勤。
今日はさらにそのあと先輩医師に飲みに連れていってもらい、四谷の自宅マンションに帰宅したのは22時を過ぎてからのことだった。
「ただいま…」
ささやき声で帰りを告げた僕の前に広がる景色は、足の踏み場もない状態のリビングだ。
床に落ちたブランケット。
開きっぱなしの絵本。
山積みになったたたむ前の洗濯物。
まるで空き巣にでも入られたのではと思うほどに荒れた部屋。
だけど僕はそんなことは全く気にせずに、散らかり放題の部屋を縫うようにして進む。
たどり着いた先は、寝室だ。玄関のドアと同様、なるべく音をたてないようにそっとドアを開く。
そして、部屋の隅に寄せられた二つのシングルベッドを覗き込み目を細めた。
そこにで安らかな寝息を立てているのは、僕にとって何よりも愛おしい宝物───妻と息子のふたりなのだから。
この記事へのコメント
皆川先生、こんなにステキな奥さんがいて幸せだね。