家飲みの提案すらも響きが優しくなる街
33歳、身長180cm、ナチュラル系ファッション、都立大在住。いまの自分が、いちばんモテている気がする。
都立大在住と言うと、下心までナチュラル系エフェクトがかかり、女性はちょっと安心するようなのだ。
それに学芸大学より大人で、自由が丘よりイマドキなムード。小体のお洒落な店が点在し、商店街にはほっこりしたムードが漂う。
駅前にスターバックスもマクドナルドもない。昔、故郷になくて憧れ続けていたスタバなのに、その不在も都立大らしい景色と気に入っている。
住むのは4階建て低層マンションの4階。ささやかなバルコニーで植物を茂らせ、摘みたてのミントでハーブティーを入れる。
朝にふたり分を入れると、つかの間の関係のつもりが、「美味しいハーブティーご馳走さまでした」なんて始まりから次の誘いがきたりも。でもいまは、ライトな付き合いで十分だ。気ままな独り身で家が好き。
それなのに、真っすぐ帰れない夜もある。つい足が向くのは『お料理bota』。小粋な料理とクラフト酒がそろい、ビストロより気軽で、すべてがいい塩梅なのだ。
センスある大人たちが醸す上質なゆるさがここにはある
金曜夜7時。早めの時間は入りやすい店だから、予約はせず、空席をじかに確かめて扉を開けた。
僕の他はたまに会う、音楽業界で働く男性のみ。
予約困難店で予定を埋めていた時期もあったが、いまは自分のペースで好きな時に好きなものを食べに行く。良質な店でそれが叶うのも都立大だ。
店主の沓野さんは、ここを開業する前はなんと飲料メーカーに10年勤めていた。お酒に合うメニューの開発などを任され、その前は京都の星付き店『よねむら』で働いていたとか。
傷心していた頃の初訪問から話しやすくて、結局、通う店って店主の雰囲気が決め手と実感する。
料理のセンスだって抜群だ。
ひとつ250円のチューリップ唐揚げはオリジナルスパイスが効いているし、ラムのトマト煮込みとクスクスは赤ワイン泥棒。〆にはちりめん山椒ごはんもあったりして、あくまで気軽な料理店だ。
ぽつぽつ客が集まり、カウンターも残り2席。
「今度、駅前にケンタッキーができるらしい!」なんてことやドラマの話、次に頼む料理の話を、カウンターに並ぶ大人が、好きなタイミングで会話に入り、酒をともにする。
この都立大的な上質なゆるさが、独り身の金夜にちょうどいい。