A1:最初から、物事を一方的決めていた。
康太と最初に会ったのは、職場だった。私は、オフィスビルの受付をしているのだが、そこに何度か訪れる背が高くて細身で少し声の低い人が彼だった。
そんなタイミングで私の同期が康太の同期と連絡先を交換していたようで、食事会が開催されることになった。そこで、初めてちゃんと会話をしたことを今でも覚えている。
「よく、オフィスに来られていますよね?」
「はい。覚えて下さっていたんですか?僕も、よくお見かけしています」
この後連絡先を交換し、食事デートにも誘ってきてくれた康太。そして三度目のデートで、告白もしてきてくれた。
「恵梨香ちゃんって、すごいピュアだよね。男慣れとかしてなさそうだし」
「そうかな?まぁそんな激しく遊んでこなかったけど…康太さんは、モテそうだよね」
「でもモテる男、嫌いじゃないでしょ?」
「うん、そうだね」
「だったら、僕たち付き合わない?」
この時は、康太の多少強引な感じが嫌いではなかったから、私もなびいたのだと思う。
でも今から考えると、康太のモラハラ気質は、この時から既に表れていたのかもしれない…。
順調に交際して1年が経つ頃、康太が、同棲の提案をしてきた。
「恵梨香、一緒に住もうよ」
「本当に?」
「うん。もちろん本気だよ」
結婚もしたかったし、私には断る理由がない。それに好きな人とずっと一緒にいられるなんて、嬉しいに決まっている。だからOKしたのだけれど、康太と一緒に暮らすうちに、ふとした際の物の言い方がキツいことに気づいた。
ある日、のんびり料理を作っている時のこと。後ろから、康太が私の姿を見て、わかりやすく大きなため息をついている。
「はぁ…。恵梨香って、ちょっと家事とかの効率が悪いよね」
「そうだよね…わかってはいるんだけど」
自分でも、のんびりしているのはわかっている。でも私は元々、ゆっくり物事を行う性格だし、それにこうやって、時間をかけて料理をするのが嫌いではない。
でも康太からすると、私の言動は非効率的で、イラつくらしい。
「もう少し効率的にしたら?今は家電も色々発達しているんだし」
「でも、ああいう家電って高くない?」
「お金は払うから。買いなよ」
「ありがとう」
こうして、本当に食洗機を買ってくれた康太。すごく嬉しいし、たしかに洗い物の時間も減り、みんなハッピーだ。
「時間って重要だからね?お金で時間を買ったほうがいいよ」
「そうだよね、わかった」
でもこの頃から、私は康太に対して物事を強く言えなくなっていく。
いつだったか忘れたけれど、私のネックレスのチェーンが絡まってしまったことがあった。これも、私は解くという作業が嫌いではないので、のんびり解こうと思っていた。
しかしそんな私を見て、またわかりやすく、大きなため息を私に向かってついてきた康太。
「ふぅ…恵梨香って、本当に一人だと何もできないよね。俺がいて、良かったね」
康太の言い方はたしかにキツいけれど、間違ったことを言っているわけではない。自分でも欠点だと思っているところを指摘されただけ…。
そう自分に言い聞かせ、私はこう返事をする。
「そうだね。康太、ありがとう」
でも振り返ってみると、私は次第に自分の意見を相手に対して言えなくなり、この頃から自分でも気がつかないうちに、康太に支配されていたのかもしれない…。
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