年収1,600万・代々木上原在住の証券マンとの別れを決意した34歳女。決定打となったお金問題とは

A2：今後の人生もスプレッドシートで管理されそうだったから

交際が始まると、必然的にお互いの家で過ごす時間が長くなっていった私たち。

俊介の家の方が私の家より広かったので、週末はなんとなく私が食材を買って俊介の家へ行き、料理をして一緒にご飯を食べる…という流れができていた。

「沙織、いつもありがとう」

私の作るご飯を美味しそうに食べてくれる俊介。それは嬉しいし、特に何も思っていなかった。

しかしいつものように俊介の家でご飯を作っていると、急に俊介がこんなことを言い始めた。

「沙織、一緒に住む？」

あまりにも突然のオファーに、私は調理中の手を止め、思わず目を丸くする。

「え？本当に？」

一緒に住むこと自体に抵抗はなかった。この先も一緒にいて、もし結婚するならその方がスムーズかもしれないとも思う。

しかし話を進めていくうちに、俊介と私の間には 想像以上に大きな“価値観の違い” があることに気づき始めたのだった。

まず同棲をする理由が、「一緒にいたいから」などではない点。

「うん。家賃とかもったいなくない？」
「そうだね…」

― そっち？？

でも、それ自体は別に構わない。正直なところ、家賃を払うのはもったいないと感じていたし、二人で暮らした方がコスパも良いだろう。

しかし、話を深掘りすればするほど、私と俊介の間にある認識の違いはどんどん大きくなっていく。

「ちょっと待ってね、真剣に考えよう。俊介的に、私がこの家に引っ越してくるイメージ？それとも、新しい家に引っ越すイメージ？」
「うーん。僕の今の家でいいんじゃない？引っ越すのも大変だろうし。あと沙織が、どれくらい家賃払えるかだよね」

そもそも、今の俊介の家に私が引っ越すのに、私が支払う前提になっていることに少し驚いた。とはいえ、一緒に住む以上、家賃を負担するのは当然なのかもしれない。

でも、やっぱりどこか引っかかる。

「ここの家賃って、いくら？」
「25万だよ。ちょっと待ってね、可視化させよう」

そう言うと、俊介はおもむろにPCを立ち上げ、まさかのスプレッドシートで何やら表を作成し始めた。

その様子を見て、私は思わず引いてしまう。

― 仕事じゃないんだから…。

しかし、スプレッドシートを作成している俊介はどこか楽しそうだ。目がキラキラしている。その姿を見てしまうと、もう何も突っ込めなくなってしまった。

「今の家賃が25万だから…沙織は10万くらい？あと食費の配分とかも考えないとだね」

俊介の家なのに私の支払う割合が意外に多いのは一旦置いておくとして、恋人間での話し合いにスプレッドシートを持ち出すのはどうなのだろうか。

― そんなに細かく計算する必要、ある…？

恋人同士なんだし、そこはもう少し“ふわっと”させてほしい。1円単位まで細かく管理されると、完全に萎えるし、そこには愛がないように感じてしまう。

「外食は俊介、家のご飯や材料は私持ちとか？」

「いいね、そうしよう。一旦毎月の外食費は僕にして、家のご飯は沙織だね。あと何が必要かな？光熱費は僕が払うとして…」

俊介の性格が細かいことは知っていた。でもこの先一緒に暮らして、財布まで一緒になったら、小姑みたいに細かく管理される未来が見える。

それに俊介は、やたらと私に堅実さを求めてくるけれど、私は大雑把な性格だ。こんな細かい表に縛られる生活なんて、息が詰まるに決まってる。

思考がいっぱいになった私は、とりあえず気分転換に行きたかったお店を提案してみた。

「来週ここのお店行かない？」

しかしこの私の提案に対しての俊介の返答に、すべてが詰まっている気がした。

「いいね！行こう。コスパも良さそうだし」

デートにコスパを求められるのは嫌だ。

お金に細かい男性は、結婚するには適任かもしれないけれど、ロマンチックではない。

何よりケチな男は、一緒にいてつまらない。

結婚願望もあって良いかもしれないけれど、俊介と結婚したら窮屈な人生になることが容易に想像できる。それに、仮に自分のお金でも高い物など買ったら怒られそうだし、俊介の管理下に置かれそうな気がして怖い。

恋人である以上、お会計問題は多少緩くていい。スプレッドシートまで出されて細かい要求をされたら、冷めてしまう。

― お金で揉めるのとか、一番嫌なんだよね…。結婚したら、きっともっと大変だろうな。

いろいろと細かい俊介に一気に嫌気が差してしまい、私は早めに別れる決意をした。


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