運命なんて、今さら Vol.10

「今夜は帰りたくない」と2回目のデートの帰り、28歳女に言われた男。どう対応するのが正解?

「…はい、お邪魔します」

寿人の後ろに続いて広々とした玄関に入ると、ゼラニウムのような、アロマのいい香りが鼻をかすめる。

そのまま廊下を歩くと、広いリビングに着いた。ブラウンとシルバーのインテリアが並ぶ、シンプルな雰囲気の部屋だ。

全体的に物が少なく、整然としていて、知的。寿人のイメージそのもので、結海はほっとする。


「素敵なお部屋ですね。とっても広いし、きれい」

結海は、ふと研哉のことを思い出した。どうせ結海が片付けてくれるからと、そのへんに服やら小物やらを放って暮らしていた研哉を。

「結海さん、何か飲みますか。お酒なら、ワインかウイスキー、ラムとかジンも少しあります。お茶でも、コーヒーでも」

「じゃあ、白ワインがいいです」

「いいですね」

カウンターキッチンに移動した寿人が楽しそうに手を洗いはじめたので、結海は言う。

「ありがとうございます。あ、私も、手を洗ってもいいですか」

「そうですよね、すみません。出てすぐ右側のスライドドアです」

リビングを出て、言われたとおりにスライドドアを開ける。洗面所もとても広く、きれいに掃除されていた。

木目調の枠に覆われた、大きな鏡。洗濯機の上にかけられたシルバーのカゴ。きれいに積み重ねられた、紺色のバスタオル。

― そういえば私、研哉以外の男性の家に来るのって、初めてかも。

結海は高揚感を覚えつつも、今日の自分はちょっとやりすぎかな、と思った。

「帰りたくない」と言うなんて、自分らしくもない。それでも言わずにはいられないくらい、寿人のことが知りたくてたまらなかった。

― せっかくだし、いい夜にしよう。


手を洗いながら鏡を見ると、恥ずかしげでうれしそうな自分の顔が映っている。

そのときだった。

鏡越しに、見覚えのあるモノが目に入った。

洗濯機の横の棚の上に、洗剤などに紛れて置かれている、ピンク色のボトル。

淡い水色のノズルがついている。ドラッグストアでよく売っている、化粧落としだ。

思わず振り返ると、横に赤いパッケージのボディクリームと、ファンデーションが置いてあることにも気づく。

どれも、よく使い込まれた様子だった。

― ……。

見てはならないものを見てしまったかも。忘れよう。そう思うのに、結海は混乱してしまう。

― もしかして、寿人さんって、遊び人なのかしら。いやいや、勘違いよね。寿人さんに聞いてみよう。でも…。

恋人でもないのにこんなふうに家に押しかけ、洗面所に置いてあるものをチェックして気に揉むなんて、失礼だ。

― どうしよう。

先ほどまでの照れた笑顔が、しゅるしゅるとしぼんでいく。


▶前回:彼と初めての夜デート。22時半、「まだ帰りたくない」と思った28歳女は…

▶1話目はこちら:「自然に会話が弾むのがいい」冬のキャンプ場で意外な出会いが…

▶NEXT:3月19日 水曜更新予定
寿人を信用しきれない結海。彼に切り出した、ある一言とは?

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この記事へのコメント

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No Name
ありきたりな展開過ぎて読んでるこちらが恥ずかしくなってくるレベルですね。
2025/03/12 05:2234
No Name
誰もが先週コメントで予想した通りの展開。しょうもな。
9-10話をもっと簡潔にして一話分に納めた方が良かったと思う。
2025/03/12 05:1823返信1件
No Name
結海っておばさん通り越しておばあちゃんみたい。
いっつも肩凝りが酷いのだって言ってる🤣
2025/03/12 05:2013返信1件
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