11歳年下の女子大生に恋愛相談してたら、意外な展開に。恋愛に奥手な32歳男は…

「パパもママも、カウンター鮨は大人になったら連れていくとか言ってたくせに。今月は、2人してバルセロナ旅行してるんだよ」

両親は3年前、華が早稲田大学に受かったのを見届けて、軽井沢に2人で引っ越した。「第二の人生を始める」「なにかあったら華をよろしく」と寿人に言い残して。

高円寺の実家には、華が一人で残った。

結局、2人は、軽井沢どころか、そもそも日本にもおらず海外旅行三昧の様子。寿人は、華がなんだか気の毒で、誕生日を含めて季節に1回くらい、こうして彼女を食事に連れ出しているのだった。

「いいよねえ、パパもママも。大手で共働き、たっぷり稼いで運用して、早期退職」

華は、サグラダ・ファミリアをバッグに映る両親の2ショットをニヤニヤしながら見せてきた。なんだかんだいって華は、両親ととても仲がよく、常にLINEを送り合っている。

「まあ、私の時代、あの2人みたいに安泰な将来も描けないよなあ…。せめて就活、頑張らないとなあ」

寿人は、華に対して未だに、ヨチヨチ歩きだった頃のあどけない姿を見てしまう。化粧をした姿で、大人びたことを言っている華に、いつも少しだけ混乱する。

そのとき、華のスマホの待ち受け画面が目に入った。黒い柴犬が、人懐っこく笑っている。

「それ、お店の犬？」

今彼女は、新宿のペットショップでアルバイトをしているのだ。

「うん…そうだよ」

途端に、華の表情がくもる。口は笑っていても、目が震えているのを寿人は感じる。

「…ん？なんかあったの？」

「…この子、つい3日前に飼い主が決まって。来週には新しいおうちに行っちゃうんだ」

その柴犬はお店に1年半もいて、スタッフの中でも特に華に懐いていたそう。愛しくて、待ち受け画面にしていたのだという。

「喜ぶべきなんだけど、寂しいんだ」

華は、少しだけ涙を浮かべる。

「でもね、素敵な飼い主さんなの。絶対に大事にしてくれる。わかってる」

「そっか。華がそう感じたなら、絶対に幸せになってくれるよ」

それ以外に伝えられる言葉はないと、寿人は思った。ただ、優しく年を重ねている華を、誇らしいような、ほっとしたような気持ちで見つめた。

「よし、華。好きなの、もっと握っていただこう。ちょっとは元気出るでしょ」

「…え？じゃあ…大トロがいい」

目尻の涙を袖で拭ってそう言った華は、「大トロ、2貫食べたい！」と、無邪気に笑った。

食事を終え、2人で並んで店の前の道を歩く。寿人は駅まで華を見送ろうと思ったのだが、「ここでいい」と華は言った。

「アルバイト先にいい感じの先輩がいるの。“お兄ちゃんと違って”しっかりアクションかけてみたら、今から会えることになった」

「…お兄ちゃんと違って、で悪かったな」

華はごきげんそうに「ふふふ」と笑う。

「今日はありがとう。ごちそうさまでした」

「はい。じゃ、気をつけてね」

手を振ってちょっと歩いた後、華に「ねえ」呼び止められて、寿人は振り返る。

「お兄ちゃんさ、一緒にいて超楽しいタイプではないけれど…お兄ちゃんみたいに本当に優しい人って、私の周りにはなかなかいないよ」

「…ちょっと、なんだよ」

「だから、堂々とアクションするのだ！」

華のガッツポーズに照れくさくなった寿人は、曖昧に笑い、手を振って歩き出す。

― 華の周りの男子大学生と比べられてもな。

苦笑いしつつも、寿人は、華のおかげでちょっと自信をもらえた。

― …結海さんに連絡してみるか。元カレとのこととか、ちゃんと話してみよう。

そのとき、コートのポケットの中で、寿人のスマホが震える。

「電話だ…」

寿人は、もしやと期待しながら、酔って温まった手で、スマホを取り出した。


▶前回：「これって脈なし？」初デートの後、彼女から1週間連絡がない。いい雰囲気だったのにナゼ…

▶1話目はこちら：「自然に会話が弾むのがいい」冬のキャンプ場で意外な出会いが…

▶NEXT：2月12日 水曜更新予定
ようやく恋に向き合う決心がついた寿人。結海の本音に触れて…

あなたの感想をぜひコメント投稿してみてください！