運命なんて、今さら Vol.3

1ヶ月前に別れた元カレにありえない「お願いごと」をされ…。28歳女が困惑した理由

結海は、約1ヶ月前、12月中旬にたしかに伝えたのだった。

「研哉。もう別れたい」

研哉は「そうか」と言って小さくうなずき、合鍵を返してくれた。

なのに、電話がしょっちゅう来る。

そして、横浜に一人で住んでいる自分のおばあちゃんとの約束を、頻繁に押し付けようとしてくる。

「おーい結海、聞いてる?だから、マチコばあちゃんところ、行ってあげてよ」

「…なんでよ」

「マチコばあちゃん、庭でとれた金柑でジャムを作ったから、どうしても俺に食べさせたいんだって。でも俺、あれ苦手なんだよ。代わりに行ってきてよ」

付き合って6年。気づけば、マチコおばあちゃんは、祖母を早くに亡くしている結海にとって本当の祖母のようになっていた。

― 研哉のお願いは聞きたくないけれど…行かなかったら、マチコおばあちゃん、ガッカリするよなあ。

結海は、渋々「…わかった」と言う。その途端、八方美人で流されやすい自分にうんざりしてくる。

「私たち別れたの、わかってるよね?」と念を押して、結海は電話を切った。


― ダメだ。もっと毅然と対応しないと。

頭に浮かぶのは、寿人のことだ。

紅茶のカフェに連れていってもらったあの夜、結海は、彼の目をまっすぐに見て、こう伝えた。

「実は今、元カレと別れたばかりで、うまく終われてなくて。そんな状態で…寿人さんと2人で飲むのが、申し訳なくて」

「…そうなんだ」

「不誠実なことは、したくないんです」

研哉とのことをまっさらにしてから、寿人としっかりデートをしたい。結海は遠回しながらに、そんな思いを伝えたのだった。


そのとき、道沿いにある「ハンバーグ」という看板が出たお店から、デミグラスソースの匂いが香ってくる。

「あ…この香り」

結海はふと、四谷にあった小さな洋食屋を思い出す。研哉と何回も通ったそのお店も、こんないい香りを漂わせていた。

― 懐かしいな。でも研哉は、経営者になって相当変わっちゃったな…。

研哉とは、上智大学文学部新聞学科の同学年として出会った。

4年生になってから仲良くなり、卒業式の日に付き合い、そこから6年ほど交際して、今に至る。

― 昔は、もっとフラットに関われてたのに。

いつのまにか結海は、研哉を前にすると萎縮してしまうようになった。

早くしっかり縁を切りたいのに、強く出られない。

こんなに不均衡な関係になったのには、ある決定的な出来事があった。

「…あんなこと、頼まなかったらよかったよね」

結海の足音が、用賀の街にしょんぼりと響いた。


▶前回:28歳女性と初デート。待ち合わせ場所に現れた女の服装をみて、男が息をのんだワケ

▶1話目はこちら:「自然に会話が弾むのがいい」冬のキャンプ場で意外な出会いが…

▶NEXT:1月29日 水曜更新予定
対等だったはずの恋人関係がいびつに…?結海が後悔している、その“きっかけ”とは

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この記事へのコメント

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No Name
金柑のジャム作ったからどうしても俺に食べさせたいんだって

じゃお前が行って食えばいいだろが。苦手でも行け!
2025/01/22 05:2228
No Name
なんか、結海って面倒くさい人かも?!別に嫌いとかではなけどどうもいい子ぶってて好感度低い登場人物だなと。別れてるのに何故しょっ中連絡してくる元カレの言いなりなってるのかも意味不明。萎縮するほどのモラハラ男だったなら、もう研哉のSNSもLINEもブロックすればいい。
2025/01/22 05:1925
No Name
結海は押しに弱いのかね?
実家の手伝いも営業のノルマも元カレのお願いも何でも引き受ける。
2025/01/22 06:0816
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