圏外だった彼との夜が、想定外に楽しかった件

先々週の火曜日の合コンで出会ったメーカー勤務の智弘さん（30）。全然タイプじゃなかったけど、「ビブグルマンに載っている中目黒のイタリアン、予約がとれたから」ってメールに心惹かれてしまった。

そのお店は、中目黒銀座商店街を進んだ終点近くにある『クォーレアズーロ』。本場イタリアの家庭料理が楽しめるお店で、界隈には『ラ・ブーシェリー・デュ・ブッパ』や『タツミ』などの名店が並ぶ。

中目黒駅で待ち合わせした彼は、私の10cmヒールのルブタンをちらっと見て、「ちょっと遠いからタクシーで行こう」と横断歩道を渡りタクシー止めた。ヒール履いて来ちゃったから気を遣ってくれたのかもしれない。

うなぎの寝床のように細長い店内。キッチンを囲むようにしつらえたカウンターにびっしりと人が詰まっていて、人気店であることが伺える。メニューが手書きで書かれた黒板は眺めるだけでも飽きない魅力的なラインナップ。いつも優柔不断でメニューを決められないでいる私。智弘さんがニコニコ笑顔で言った。

「いいね、美味しそうだ。全部頼んじゃおう。」

食べきれるか心配してくれる店員の有難い心配を智弘さんは丁重にお断りして「さぁ、今日は食べて、飲むぞ」と意気込んだ。そんな彼の優しい気遣いに自然に笑顔がこぼれる。

値段的に割り出される想定を超えた美味しさについつい、オーバーリアクションになる。

メーカー勤務で見た目も冴えない普通の人。だけど、彼の穏やかな物腰に安堵してついつい饒舌に。ふと週の前半に設定してしまったことを後悔している自分に驚く。

帰り道、店を出ると智弘さんが「また誘ってもいいかな？」と聞いてきた。「今度は、金曜日に」と喉元まで言葉が出そうになったけど、ぐっと我慢。帰りのタクシーの中で、頬が緩んでしまう自分がいた。