東京3C男子 Vol.5

「今週末ウチくる?」カレー店で初デートしたら、家への誘いに女性から“OK”が出た。その理由とは

平日週5日、勤務は9時17時。特別な趣味もなく、退屈な毎日。

勤務先が比較的お堅い社風だからか、就職してから新規で知り合う人々は似た雰囲気で固定化されている。

安心感があるが、奈那には物足りなくもあった。

― ま、私も誰かから見たら、退屈な普通の女よね。だけど…。

次に交際する人は、危険な匂いのする男…とまではいかずとも、平坦な日常にスパイスを加えてくれるような面白い人がいい。奈那は密かにそう考えている。

「ま、急いでいないから、私なりにのんびり探すよ」

「奈那さんなら、すぐいい人が現れますよ~」

根拠のない美月の軽口に、奈那は苦笑いする。しかしその言葉通り、程なくしてピンとくる相手が、奈那の目の前に現れたのだった。


「小嶋勝次です!よろしくお願いします」

新年度の朝礼で、他の異動者と横並びのなか、ひときわ大きな声を上げて挨拶をする男に奈那は目を奪われた。

「入社7年目、法人営業部から来ました。金融事業部でも、恋に仕事に全力投球したいと思います!」

コミカルな自己紹介に、年度初めの緊張感で張りつめていたオフィスの空気は一気に和む。

聞けば小嶋は、大学では野球部に所属していた体育会系だという。卒業を機に野球は引退したが、今はなんとクリケットのクラブチームに所属し、汗を流しているのだそう。

草野球ではなくあえてクリケットという彼に、奈那の好奇心はうずく。

がっしりとした体形に、アンバランスなベビーフェイス。天然パーマ気味のくせっ毛やお洒落に整えられたアゴヒゲも、彼の個性を際立たせている。この会社には珍しいワイルドなオーラを放つ人だった。

― なに、この人…。ちょっと面白いかも。



そんな奈那の予感は的中したどころか、小嶋のユニークさは想像を超えるものだった。

歓迎会の店として小嶋が自らリクエストしたのは、会社近くのインド・ネパール系ダイニング。会社の飲み会にはまず使われないような、路地裏にある個人の料理店だった。

「ここはダルバート目当てにランチに通っていた店ですが、一度宴会で来てみたかったんですよ。インネパ店のつまみって美味しいものが多いんです。ここは定番のセクワはもちろん、モモ、アチャールやパニプリも置いてあるので」

参加者の誰もが、小嶋の放つ謎の言葉の数々にキョトンとしている。

ちなみにダルバートとは、ネパールの国民食と言われているカレーなどがセットになった定食のことだ。インネパとは、その通りインド・ネパールを略したもの。セクワとは、スパイスに漬けたお肉を直火で焼いた料理。モモはネパール風の餃子、アチャールはお漬物、パニプリは揚げ菓子だという。


説明があったとはいえ、一見グロテスクで得体のしれない大皿料理…。誰も手が出せない。

「奈那さんから食べてくださいよ」
「いや、美月ちゃんからどうぞ」

譲り合いながらも、奈那は恐る恐る各々口にした。

― !?

奈那だけではない。後を追って誰もが口に入れた途端、表情が華やいだ。

「え…おいしい」
「たまにはこういう店で飲み会をするのも発見があっていいですね!」

どれも独特な味わい。しかし、抜群にお酒に合った。

特にマトンのセクワは、漬け込んだスパイスの風味が肉の旨味を存分に引き立てて、濃厚なコクある美味しさ。重厚で芳醇な香りも食欲をかきたてた。想像よりも辛味は優しく、それでいてインパクトがある。

生まれてこの方味わったことのない食感が、口の中にひろがる。脳内の細胞が一気にはじけ、新しい世界の扉が開いた。そんな感覚だ。

「みなさん、そんなに喜んでくれるとは…」
「小嶋さん!めちゃくちゃ美味しいです。おかわりしたいくらいです」

奈那は小嶋に、心からの礼を言う。

誰よりも箸が止まらない奈那を、小嶋は感極まった表情で見つめていた。

この記事へのコメント

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趣味もなく毎日ぼーっと過ごしてるようなクソつまらない人間ほど、異性に面白さを求めているのかねぇ。つまらないだの印象に残らないだの退屈で刺激がないだのうるさいったら。 小嶋とは刺激が有り過ぎてドン引きしたとか....どうせそんなオチでしょう😂
2024/07/09 05:2226返信2件
No Name
私は、ちょっと嫌だな小嶋さん。馴れ馴れしい所もだしグロテスクな料理じゃ苦手な人もいるから正直な感想言ったら不機嫌になりそう。スパイスや料理に関するウンチクも毎度毎度だとうんざりしそう。 インドカレーとか、たまに食べるから美味しいのであって、しょっ中インネパ巡りしてたら飽きる。カレーをスパイスから作る男子に偏見ないけど小嶋とは合わない。
2024/07/09 05:3326返信5件
No Name
前置きが長過ぎると感じた。 「今週末ウチ来る?」 「ぜひ」 で続きは来週って。
2024/07/09 05:1522
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