世のハイスペックな男女は、一流企業に勤めてバリバリ稼ぐ。何も苦労もせずに働き、華やかな印象だ。
だが、そんな一流企業を辞める人も多く存在する。では、なぜ彼らは退職という道を選んだのだろうか?
そこにはその業界、その企業に勤めた人にしかわからない、光と闇が広がっていた。
Vol.5では、ドラマや漫画でも描かれることの多い「外科医」の世界にスポットを当てる。
幼少期から医師になることを志してきた男性が見た、外科医の光と闇とは?
取材・文/風間文子
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就職倍率は300倍以上、早慶卒が大多数。エリートが集まるはずのキー局が、凋落の一途を辿っているワケ
▼INDEX
1. 「やりがいがある」と語る笑顔の裏にある思い
2. 外科医の多くが身を置く、医局の実態
3. 少しずつ身体を蝕んでいく外科医の“闇”
4. 外科医が、親の死に目に会えると思うな
「やりがいがある」と語る笑顔の裏にある思い
【今回の取材対象者】
名前:諫山聡さん(仮名、30歳)
職歴:市中病院勤務
年収:700万円
最終学歴:国立大学 医学部
午前2時。
うなされるようにして目覚めた男性は、暗がりの中で枕元にある携帯電話を手繰り寄せ、着信がないことを確認すると胸をなで下ろした。
隣には、男性の妻が静かに寝息を立てている姿があった。
その寝顔をしばらく見つめながら、彼の心は揺れていた。
◆
「これより腹腔鏡下右半結腸切除術を始めます。予定通り、腸管切除とリンパ節郭清、腸管再建となりますので、よろしくお願いします」
手術室に入室したのは朝9時だったが、患者に麻酔を施すなどして、実際に手術を開始したのは10時前だった。
腹部に入れたカメラの映像から事前の見立て通りであることを確認すると、十分な安全域をとって患部を切り取り、切除後は残った腸管どうしを丁寧につなぎ合わせていく。
4時間ほどで手術を終えると、術後管理や戻される病棟への指示出し、手術記録の作成といった作業が待つ。昼食もままならず、一段落ついても休む暇はない。
今度はこれまで執刀した患者がいる病棟を回診し、都度、看護師に検査の指示を出す。気づけば日が暮れている、なんてことは日常だ。
日中に普通に働いた後に当直をして、翌日もそのまま働き、連続して30時間以上勤務するといったケースも月に2〜4回はある。
「それでも患者さんが元気になって、食事を取れるようになった姿を見たり、直接感謝の言葉をもらったりすると、この仕事に就いて良かったと思いますね。
外科は内科などと違い、手術によって症状が劇的に良くなるケースが多い。だから医師としてのやりがいも大きいんですよ」
そう語るのは、外科専攻医の諫山聡さんだ。
彼は医師国家試験に合格後、医師臨床研修(旧・初期研修)を経て、専門医の専門研修プログラムとして消化器外科を選んだ。その研修期間も間もなく終わろうとしている。
「外科専攻医になりたての頃は、ベテラン医師にあれこれと指導してもらうのが当たり前でしたが、最近はようやく1人でも任せてもらえるようになった。
まだ経験不足であることは否定できませんが、昨日よりも今日と、日々自分の成長を感じることもできています」(聡さん)
彼は某大学病院の医局に所属しながら、関連する市中病院に勤務し、年収は700万円程度だ。
一方のプライベートでは、愛する妻との間に待望の第一子が生まれようとしていた。
そして現在、彼はやりがいのある外科医を辞めるかどうかで悩んでいる。
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