報われない男 Vol.4

「夫に、朝帰りしたことを知られたくない…」ストレス解消で若い男の家に泊まった34歳人妻の本音

「まず聞きたいのは、なぜ今日私に会いに来たのかということなんです」

美里は、そっか、まずそこですよね、ごめんなさい、と言って続けた。

「手紙を読んでもらえたのかなって心配になって。崇さんに聞いても答えてくれないから」
「…夫と話したのですか?」
「はい、手紙を送ってから何度か、キョウコ先生手紙読んでくれたかな、崇さん知ってる?って聞いても曖昧な返事しか返ってこなくて。今日の朝も聞いたんですけど…またはっきりしなかったから、先生の授業の時間を調べて会いに来ちゃいました」
「今日の朝って…夫は今朝あなたにあったのですか?」
「崇さん私の家にいましたから。キョウコさんとの家には帰ってませんよね?2日前から」

今日は撮影だからって朝5時くらいに出て行きましたけど、と無邪気に笑う美里から目が離せないまま、京子は座っているのに足の力が抜けていくのを感じていた。

― 崇はこの子の家にいる…?

ダメ。崇の話を聞くまでは美里の言葉を鵜呑みにしてはいけない。真実は登場人物の数だけあるはずなのだから。京子はそう自分に言い聞かせると、あの日の崇の言葉を思い出そうとした。

あの夜。私が手紙について聞いた夜。崇は美里との関係について何と言ったか。関係を持ったことは認めた。その上でこう言ったのだ。

「でもオレは、美里ちゃんとの子どもを欲しいと言ったことは一度もない」

それを思い出しながら京子は言葉を選んだ。

「あなたの手紙には、離婚して欲しい、崇との子どもが欲しいと書いてありましたね。でも崇はあなたとの子どもを欲しいと言ったことはないとはっきり言いました。そして」

≪オレの一番がキョウちゃんっていうのは、ずっと変わらない。それは絶対に≫

崇の言葉を…彼が一番に思っているのは自分だと美里に告げた。

「もしもあなたと夫が少しでも関係を持ったのなら…彼がまっすぐに言葉を紡ぐ人であることはわかるはずです。彼の言葉は信じられる。もちろん私も…信じています」

すると。美里は意外だなぁ、と砕けた表情になった。


「キョウコ先生って崇さんに執着がないというか…興味がないのかと思っていたんですけど、そうでもないんですね。あ、でも安心してください。私、崇さんの一番がキョウコ先生だってことは知ってます。むしろそんな2人の作品がずっと大好きだったわけだし」

でも…と美里の笑顔が崩れ、その目から涙がこぼれた。そして、私にも、崇さんが言ってくれた言葉があるんです、と言って続けた。

「崇さん私に言ってくれたんです。

生活の心配をせずに、美里ちゃんは好きな世界に没頭してほしい。オレ、美里ちゃんの作る世界が本当に好きだからサポートするよ、って」

京子の視界が揺れた。まるで突然揺れのひどい船に乗せられてしまったかのように。目の奥が鈍痛で滲み、のどの奥からも不快感がこみ上げてくる。

崇が美里に言ったというその言葉は…京子にとって、大切な、大切な言葉だった。

この記事へのコメント

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No Name
キョウコ先生のファンだったんです! って、それなら普通そんな方の夫と平気で不倫出来ないよ。 生活のサポートしてる夫も悪いし。
2024/03/02 06:3231返信2件
No Name
こちらも読み応えあり
2024/03/02 06:1021返信2件
No Name
大輝は京子さんに恋をしながら、タカラをデートに誘ってピンチを救ったんだね。ありがとう。

今の20代も、【◯◯に100万点】とか使うんだね。子どもの頃に見たクイズダービー以来だよ、そんな表現。あの頃は、はらたいらさんが何者なのか分からなかった。正体が分かったのは、彼が亡くなった時。

しかし、長坂美里の話は矛盾しないけど嘘くさい。京子さんと大輝の関係と大差ないのかも知れない。
2024/03/02 06:2712
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