報われない男 Vol.2

「彼の子どもがほしい」妻の職場に届いた一通の手紙。夫のストーカーかと思い、家で尋ねると…

現在、35歳の京子と42歳の崇は今年結婚して10年目を迎える。

出会いは、崇が勤めていたテレビ局。そのテレビ局主催のシナリオコンテストに、最優秀賞ではなかったけれど、次点で入賞した京子の脚本が、あるプロデューサーの目に留まった。20歳という若い年齢での応募が、ひと際目を引いたのかもしれない。

その後、そのプロデューサーの指導を受け、京子が初めてのテレビドラマ脚本を完成させたのは、22歳の時。それが深夜の1時間枠で放送されることになり、その監督に若手ながら抜擢されたのが崇だった。


若手での抜擢というプレッシャーを共有した2人が、親しくなるまでに時間はかからず、お互いをキョウちゃん、門(カド)くん、と呼ぶようになり、いつも一緒にいるようになった。書くことは得意でも、周囲とのコミュニケーションが苦手な京子を、崇が上手くリードし、周囲への通訳も買って出る。

深夜ドラマがヒットすると、2人セットで発注が来るようになった。書くことへの情熱を誰より理解してくれて、作品へのリスペクトを注ぎ続けてくれる崇の存在は、いつしか京子にとってなくてはならないものになってゆき。

崇からの告白で付き合い始め、とんとん拍子でプロポーズを受けて、京子が26歳、崇が33歳のときに2人は結婚した。

プロポーズの場所は、ドラマの企画を徹夜で練った翌朝、テレビ局のカフェテラスで、コーヒーを飲んでいる時だった。

「オレが稼ぐから、生活の心配をせずに、キョウちゃんは好きな世界に没頭してほしい。オレ、キョウちゃんの書く世界が本当に好きだから、一生そばで支えたい。結婚してください」

脚本家は、一部の売れっ子作家を除いて、安定して儲かる仕事とは言えない。

ドラマや映画は、実現までに時間がかかるし、途中で企画がダメになることも少なくない。定期的に仕事がもらえる人は限られていて、収入を得るための他の仕事に時間をとられ、作品作りに集中できない、という脚本家も少なくない。

そんな中で、才能を守り続けたい、と言ってくれた崇のプロポーズは、書くことに没頭していたい京子にとって夢のように最高の言葉だった。

その後、2人共順調にステップアップし、別々の仕事を受けながらも、組めば必ずヒットを生む、というクリエーターカップルとして、今の地位を築いてきた。

別の仕事をしていても、京子は必ず崇に相談してきたし、崇が独立し自分の会社を作った時、京子はごく自然な形でその社員となり、崇は京子にあった仕事を選び、京子が快適に作品を作れる環境、人材の配置に目を配ってくれている。

公私共に最高のパートナーがそばにいてくれる。そんな日々がずっと続いていくであろうと京子は信じていた。あの日、あの手紙が届くまでは。

この記事へのコメント

Pencilコメントする
No Name
長坂...あり得ないよ。不倫してその相手の奥様に手紙送って離婚して頂きたいとか。ふざけてるとしか思えん。作り話に言っても仕方ないけどそこまで感情移入出来るお話だったので。
2024/02/17 06:2526返信5件
No Name
万年質???笑笑
2024/02/17 08:2712返信4件
No Name
雄大に大樹、友坂に長坂、同じ漢字を使用すると紛らわしいな。違う方がスッと入って来やすい。
2024/02/17 11:449返信1件
もっと見る ( 22 件 )

【報われない男】の記事一覧

もどる
すすむ

おすすめ記事

もどる
すすむ

東京カレンダーショッピング

もどる
すすむ

ロングヒット記事

もどる
すすむ
Appstore logo Googleplay logo