2022.06.25
「この景色、全然変わらないなぁ…」
東京から新幹線で2時間ほどの距離にある地元に帰ってきたのは、数年ぶり。
中学卒業から20年の節目ということで、久々に同窓会が開催されるのだ。
大手広告代理店での仕事は忙しく、帰省は数年に1回、正月だけ。時代錯誤だとは思うが、35歳の女で独身のままだと地元では肩身がせまい。
同窓会の参加も迷ったが彼氏と別れたばかりで、加えて“ある人物”が参加すると聞き、出席を決めたのだった。
◆
「紀子、お帰り! やっぱり東京で働く女は違うね〜。これ、どこのブランド?」
地元で結婚して主婦になった同級生たちは、私が身につけているハイブランドの洋服やバッグに興味津々で質問を浴びせてくる。
顔や体型は、みんな年相応になったが、話すノリは昔と変わらない。
「あ、祐也も来たよ!」
私は、海外赴任を終えた祐也が地元へ帰っているという噂を聞き、今回の同窓会の参加を決めたのだ。
学生時代から一際目立つ存在だった祐也は、女子みんなの憧れだった。
当時の私もその例に漏れず、彼に密かな恋心を抱いていた。
35歳になったいまも独身らしい。自然体な立ち振る舞いは、明らかに他の男性陣とは違う“できる男”の品格と余裕を感じさせる。
期待を裏切らない祐也の姿に胸が高鳴る一方、祐也の隣にべったりと張り付いている女の存在が気になる…。
― 若く見えるけど…同い年だよね?誰だろう、思い出せない…。
「ねえ!祐也の隣にいるの有未だよ!店の入口でたまたま祐也と一緒になったみたい。
地元にいるときは目立たなかったけど、大学デビューして、いまは東京で美容系の会社を共同経営してるらしいよ!男に支援してもらってるって噂だし、祐也のことも狙ってるんじゃない?」
情報通の友達・里枝からの情報に「あれが有未なの!?」と、皆が驚愕する。
物怖じしない里枝は、祐也と有未に積極的に話しかける。
「祐也はいつまで地元にいるの?」
私たちの乱入に、有未が明らかに嫌な顔をした。近くで見ると綺麗ではあるもののどこか不自然で、かなりのお金を費やしていることが女の勘でわかる。
「こっちにいるのは今月まで。来月から都内の本社に勤務だよ」
そう答える祐也を遮るように、有未が割り込んでくる。
「だから今度、六本木にオープンした私の知り合いの店で食事しようって話してたの。祐也、海外生活が長かったから東京案内も兼ねて」
ドヤ顔で話す有未に、負けず嫌いの里枝が言い返す。
「だったら、紀子も東京の一流企業で働いてるし、お店とか詳しいよね?紀子も祐也に東京案内してあげればいいじゃん。連絡先、交換しておけば?」
予想外の展開だが、このチャンスを無駄にしてはいけない。
「マジで?」と祐也もノリ気だ。しかし、それが有未の気に障ったらしい。
「紀子って、そんなに仕事頑張ってるんだ…。どおりでお肌も疲れてるし、ちょっと太った?ちゃんとケアしてる?いいエステサロンやクリニック知ってるから、紹介しようか?」
嫌味を言われたことはハッキリわかったが、図星だったことと、美魔女予備軍の有未に反論の言葉が思いつかなかった。
翌日も朝から仕事のため、二次会には参加せずタクシーで駅まで移動する。
二次会でも相変わらず祐也にべったりの有未の写真が、里枝から送られてきた。
有未が言うように、もう少し美容に時間をかけたいのだけど、仕事が忙しくてエステやジムにはなかなか通えない。
― もっと手軽に、綺麗になれる方法があればいいのに。…そんなうまい話は、ないか。
心の中でそうつぶやくと、スマホの画面が急に切り替わった。
「そのお悩み、筋トレで解決しませんか!?」
画面に映るのは、見ただけでもわかるほど健康的な女性だ。
― 里枝が動画を送ってきたのだろうか…?
「毎日たった3分間のトレーニングで、むくみ解消やボディーメイクはもちろん、お肌も綺麗に若々しくいられます!私と一緒にがんばりましょう!」
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