2021.10.27
高嶺の花 Vol.22021年も残りわずか。
大手IT企業勤務、28歳の陽太(ようた)は焦っていた。
この1年なにやっていたんだろうと。
仕事も恋も、思い描いていたシナリオと全然違う…。
これは一人の「こじらせ男子」が高嶺の花に挑戦する、令和の小さなラブストーリー。
▶前回:27歳美人CAに一目惚れした男。しかし、女の意外なプライベートを見てしまい…
2回目がない男【後編】
「おー、兄貴。うちに来るの、久しぶりだな」
土曜の夜。目黒川沿いを15分ほど歩き、ワインとチーズを手土産に、僕は弟の朝陽が住むマンションを訪れた。
ちょっといいワインを持ってきたのには訳がある。先週、僕が憧れている愛佳先生と朝陽のディナー現場に鉢合わせし、2人のことが気になっているからだ。
下の名前で呼び合う様子は、どう見ても…カップルそのもの。モヤモヤし続けるくらいなら、いっそ2人の関係を聞いてみようとやってきたのだが……。
「このワイン俺が好きなやつじゃん!サンキュー」
朝陽はワインの栓を開け、手際よくチーズとハムをカットするとテーブルに持ってきた。
― 愛佳先生もこの部屋に来たりしてるんだろうか…?
本題を切り出せないまま悶々としていると、朝陽がワインをぐっと飲みながら、こちらを強い視線で見てきた。
「なあ、高校で一緒だったケンジ覚えてる?この前ばったり会ったんだけどさ。あいつも同じIT業界にいるから、仕事の話になって。夏の展示会で兄貴を見かけたって言ってたよ」
「おー、ケンジ!俺らと同じ野球部の。なんだよ、声かけてくれれば…」
すると朝陽は、少し口をとがらせて足元を見た。小さいころから、言いたくないことを言うときの弟のクセだった。
「ケンジもそうしたかったけど『陽太がすごくつまらなそうに立っていたから、声をかけそびれた』って。なあ兄貴、仕事が大変なのはわかるけど、それにしたって最近覇気がないんじゃない?」
僕は思いもよらない角度からぶん殴られたような衝撃で、言葉を失った。まさか、旧友や弟にまで、最近のモヤモヤを見破られていたとは…。
その時、テーブルの上の朝陽のスマホが振動する。目をやると、LINEの通知だ。
『西条愛佳』という表示が、僕の目に飛び込んできた。
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