男と女の怪談~25歳以下閲覧禁止~ Vol.45

年間300万以上をエリート男に数年貢がせた女。突然、送金を打ち切られた結果…

「こんなところまで押しかけてごめんなさいね」


「こんにちは…あの、外から見たら素敵な絵がかかっていたので…見てもいいですか?」

40歳前後だろうか。銀座で買い物をするために小ぎれいにしてきたのだろうが、日頃の生活圏がここではないことは一目でわかった。

輪郭が緩んだ体つきが、どうしようもなく野暮ったい。私の周りの女には、こういうタイプはいない。

妙に白っぽいベージュのストッキングに中途半端な色のパンプスをはいているのが、いかにも残念だ。

― とてもギャラリーで絵を買っていくようなタイプには見えないわ。何も考えずただ入ってきちゃった、ってところかな。

「もちろんです。午前中は空いていますから、ゆっくりご覧になってください」

私はことさらにっこりわらって、その女を迎え入れた。同じ女として、私のほうが圧勝している感覚があった。だからこそ、慈悲深くほほ笑むことができたのだ。

― もっとゆっくり、こちらに来てもいいのよ。華やかな世界の様子を、覗いてみたいのよね。


女は、意外にも、一つひとつの絵を丁寧に眺め、時折感心したようにうなずいている。

他に客がいなかったから、私は受付付近に立ち、ぼんやりと外を眺めていた。

「紗英さん、ですよね」

突然、名前を呼ばれて、私は驚いて振り返った。それまで受付スタッフという記号としてそこにいたけれど、急に自分が実体化したような気がしたのだ。

「あの、突然ごめんなさい。私、村井康介の妻の紀子と申します」

― ああ、そういうことか。

私はわざとらしくため息をついた。こんな野暮ったい女に知り合いはいない。道理で、彼女は私の「大事なお客さん」の妻なのだ。

康介さんとは3年前から「特別に」親しくしている仲だった。

「はい、紗英です」

ほかにどうしようもなくて、私は半ば居直って頭を下げた。「いつもあなたのご主人に、大変お世話になっております」と。

「ああ…やっぱりすごくお若くて綺麗な方。これじゃあの人がのぼせるのも無理ないですねえ」

紀子という女は、意外なことにがっくり、と首をうなだれるしぐさをした。それはどことなくコミカルで、あれ?予想してた修羅場と違うな、と私は感じ始めていた。

「紗英さん、とお呼びしていいかしら?ごめんなさい、お仕事中に押しかけたりして。お家に伺ったほうがいいのかなとも思ったんですけれど、いきなり晴海のマンションに本妻が乗り込んできたら、あんまりにも芝居じみてる気がして」

どうやらマンションの場所もバレているらしい。ということは、康介さんに毎月お手当をもらっていることもすでに知っているのだろう。

「コーヒーと紅茶、どちらを召し上がりますか。ちょうど淹れるところだったんです」

私はあきらめて、そう広くないギャラリーの奥にある控室に向かった。

「すみません、お気遣いなく…。本当にこんなところまで押しかけて、ごめんなさい」

紀子という女は、本当に申し訳なさそうに、丸い体をすぼめて謝った。

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