男と女の怪談~25歳以下閲覧禁止~ Vol.43

コロナ禍の結婚式、感染対策を意識し過ぎて…!?新郎が幸せの絶頂で知ってしまった、衝撃の裏事情

符合


僕の斜め前のテーブル、多恵側の友人の一人が、なんと僕が大学生の頃にちょっとだけいいなと思っていた子、だったのだ。

僕は今年で30だから、ずいぶん前の話だ。すぐに気がつかなかったのも無理はない。でも確かに、週に何回も顔を合わせていた、憧れの「あの子」だ。

僕は混乱して、ごくんとペリエを飲みながら平静を装い、考える。

大学時代、歯学部は忙しくて、僕はシフトが自由に決められるコーヒーショップで働いていた。港区三田の実家から徒歩3分のところにある店だ。

慶應のすぐ近くだったから、案の定毎日可愛い慶應生がやってくるのだけど。その中にとっても素敵な女の子がいて、僕はその子が来るとちょっとウキウキしていた。

KEIO UNIVERSITYと書かれたビニールバッグを持っていたし、少しだけ聞こえてくる会話からも、慶應の文学部に通うミキという女の子だということまでは知っていた。


結局デートに誘ったりするような度胸はなかったけれど、年上の彼女が卒業してしまうまで1年ほど定期的に顔を合わせていた。

にっこりと笑いながら「ありがとうございます」と言って受け取る丁寧な様子。そのときに目に入った、手の甲の特徴的な小さな痣を今でも覚えている。

だから斜め前の席の彼女が、髪を耳にかけるしぐさをしたとき、その痣を見てハッとした。

そうだ、間違いない。彼女だ。

― でも、どういうことだ?席次表を見ると彼女は名前も違うし、多恵と同じ女子大の同級生とある。そうなると年齢も違うぞ…?

多恵をちらりと見ると、さっきと同じようににこにこしながら料理を食べている。

なぜだろう。彼女に「あの人って慶應出てたりしない?」と尋ねることができなかった。

僕はそのまま、その女の子と周囲をさりげなく観察した。

すると、奇妙なことに気がつく。

なぜか多恵の友人たちは皆、それぞれが黙々と食事をしているのだ。

会場は、プロフィール映像がとっくに終了し、しばしの歓談タイムなのに。

一方、僕の友人たちは、食事などそっちのけ。マスクをすると、アクリル板越しではあったが、それぞれ思い出話に興じていた。

― こんなご時世だし、気を使ってくれてるのかな?…そういえば全員、やけに似た感じのドレスだ。

多恵側のゲストは、全員がパステルカラーにひざ丈のドレスであることに、少しだけ違和感を覚える。

僕がこれまで出席した披露宴では、女性ゲストの何人かは和装だったり、ちょっと個性的な装いだったりした。

しかし今回は、本当に全員、まるでウェディング雑誌の広告のように、均一化したファッションなのだ。

「多恵、少し失礼するよ」

僕はお手洗いのあるロビーのほうを指さし、多恵に囁いた。

「大丈夫?すぐに戻ってきてね、亮太がいないと私さみしい」

多恵は冗談まじりに可愛いことを言いながら、微笑む。

今回の式は、時間を短縮し、それでもお料理をゆっくり楽しんでもらえるように余興などはカットしている。

このまま30分ほどしたら、最後は庭園に移動してバルーンを飛ばして記念撮影後、お開きの予定だ。

歓談の雰囲気を壊さぬよう、素早くロビーに出ると、式の責任者である担当コーディネーターの八坂さんも続いて出てきた。

「斎藤さま、皆さまとても楽しんでいただいて、順調ですね。お手伝いすることはございますか?まもなくガーデンセレモニーに移行します」

「あ…いや、ありがとうございます。あの、ちょっとお伺いしたいんですが…。今日スピーチをしてくれた多恵のお友達と、打合せをしていただいたと思うのですが…なにか変わったことはなかったですか?

あのテーブルの皆さんがなんだか…その、少し女性同士が他人行儀に感じられて。何かトラブルがあったのかな、なんて心配になってしまって」

自分でも、要領を得ない質問だったと思う。

でも、八坂さんというこの女性は、何かと融通をきかせてくれて、とても頼れる人だとわかっていた。つい正直に、モヤモヤした気持ちをぶつけてしまう。

八坂さんは、僕の顔を見て、たっぷり3秒、停止した。

それはきびきびしている彼女からすると、いささか長すぎる間だった。

「…いえ、何もございません、斎藤さま。きっと女性陣はソーシャルディスタンスに気を使ってくださっているのでしょう。さあ、クライマックスが近づいてきました、せっかくのパーティーを楽しみましょう」

八坂さんの言う通り、僕は会場に戻った。そして、宴はつつがなく、感動的に終了した。

でも、僕は気がついてしまったのだ。

ブーケトスは、女性陣が一様にニコニコと立っているだけだったため、空気を呼んだ僕の親友がキャッチに行ってくれたので大いに沸いた。

女性陣は、お開きの挨拶とともに、軽やかに全員が帰路につき「二次会にお茶でも誘おうと思ってたんだけどなあ」と男性陣が残念がっていた。

最後に彼女たちの後ろ姿。クロークに預けたサマージャケットは、3パターンほどにわかれていたが、ほとんどお揃いだった。

「…八坂さん。昔テレビで見たことがあるんですけど…結婚式の出席代行って、どんな人が頼むんでしょうね。八坂さんくらいのプロフェッショナルならば、ひょっとしてご経験があって、見抜けるんじゃないですか?」

ゲストを見送ったあと、てきぱきと御祝儀を金庫から取り出している八坂さんに、僕は話しかけた。

八坂さんは、その日初めて、本当に晴れ晴れとした笑顔で歯を見せて笑った。

「そのようなことが私どもにわかるはずがありません。確かに、そのようなビジネスがあるとは聞いたことがあります。おそらくいろいろな事情があるのでしょう。

でも斎藤さま、私は長年この仕事をしていて思うんです。そうまでして結婚したい。どんな手段を使っても秘密を守ろうとする。…それはご新郎様への愛のカタチのひとつなのかもしれない、と」

僕は、八坂さんの言葉を胸に、ロビーで一人座って思考を整理しようとした。

その時…。


「亮太、こんなところにいたの?ドレスを脱ぐ前に、ママに動画メッセージ、撮ってもいい?」

多恵が無邪気にスマホを掲げ、腕を絡ませてきた。

オンライン越しに1度会ったきりの多恵の母親。…果たしてもう一度会うことはあるのだろうか。

― 多恵、きみは一体何者なんだ…?

脳裏に浮かんだ疑問を、ぼくは頭をひとつ振って、追い払おうとした。


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