この結婚、間違ってた? Vol.2

深夜2時のベッドルームで、夫の秘密を暴く28歳妻。彼女を不幸に陥れた“指紋認証”の罠

指紋認証の罠


「ただいま~」

21時、俊介が帰宅した。

「お風呂、自動にしてあるけど入る?」

「あー、さっきまでホテルで仕事しててさ。シャワーしてきたからいいや。ありがと」

― ホテル…。

鼻の奥が、ツンと痛くなる。

想像したくないのに、女性と一緒だったのかもしれないと一瞬でも思っただけで、吐き気がする。

「麻友子、今日も忙しかったんだろ?あんまり無理すんなよ」

俊介が私のお腹を撫でながら言うが、その言葉には心がこもっていない。

テーブルの上に置いている彼のスマホが、鳴っている。そこへ視線を向けると、夫はさりげなく、裏返しにした。

― ねぇ…やっぱり、そうなの?

お腹の子のことを考えると、グレーのままにしておく方がよいのか迷う。でも、白黒はっきりさせたいという気持ちが勝ってしまった。

夜中の2時。

俊介が深い眠りに入った頃、私はむくりと起き上がり、リビングから彼のMacBookを持ってくる。彼のPCの機種は指紋認証で開くはずだ、と來未が教えてくれたのだ。

起こさないように細心の注意を払いながら、彼の右手の人差し指を、そっと指紋認証に載せる。

― 開いた!

そのまま、ベッドルームからリビングに戻る。パンドラの箱を開いてしまった恐ろしさと、緊張で、胸の鼓動が速くなる。


― どうしよう、すごく怖い…。

女性にモテる彼のことだ。決定的な証拠がなかったとしても、何かしら見つかるだろう。

何かが見つかった後、私は俊介と夫婦としてやっていけるだろうか。

それに、開け方を知ってしまった私は、これからもこうやって覗き見するかもしれない。それは間違いなく、健全ではない。

そんなことを考えていたら、後ろから物音がした。

「ねぇ。麻友子、何してるの?」

冷たく、低い声。

「え…あの、えっと……」

何か言い訳を、と思うのに、何も思いつかない。真夜中に他人のPCを勝手に開いていることに、正当な理由なんてないのだから。

「見ようとしたのは、ごめん!でも俊介…あなた、浮気してるでしょ!」

私は、立ち上がって強い口調で言った。ここで怯んでは、うやむやにされてしまう。

― 今ここで、無実を証明して!お願い。

そう願い、まっすぐ目を見つめた。しかし、私が予想した展開とは真逆の方向へと、俊介は舵を切った。

「してるよ」

「……え?」

目の前が真っ暗になる。

俊介の言葉を、何度も頭の中で再生するが、間違いなく、“してる”と言った。

「だから、浮気してる。やっぱりバレちゃうよね。でもさ、こういうことするのは…さすがにダメじゃない?夫婦の間でも、プライバシーってものがあるよね」

私は、びっくりしすぎて、言葉が出なかった。まさか、ハッキリと肯定されるとは思ってなかったのだ。

言い返そうと、深呼吸すると俊介が続けて言う。

「ごめん、もう麻友子のこと抱けないんだわ。妊娠が判明してから、もう女として見れなくなってしまって。それでもよかったら、このまま子どものために夫婦でいてもいいけど」

「…何を言ってるの?」

そこから俊介とどんな会話をしたのか、覚えていない。

― 7時か…。

気づいたら朝になっていた。俊介は朝早くどこかへ出かけたのか、すでに家にいなかった。

恋人時代に浮気を許し、最終的に顔で結婚相手を選んでしまった報いなのだろうか。

だとしても、あまりにも酷い。

私は、重い体を起こし、上司に体調不良で休むことを電話で伝えた。

― 大丈夫。あなたのことはちゃんと守るからね。

お腹をさすりながら、心に誓う。妊娠中という身で、どこまで体に負担をかけずに戦えるかわからない。

でも、私にはやらなければいけないことがたくさんある。

知人に弁護士がいることを思い出し、スマホをスクロールし連絡先を探した。



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