男と女の怪談~25歳以下閲覧禁止~ Vol.13

夫は、毎週帰ってくると言ったのに…。ワンオペ育児妻が奇妙に感じた、単身赴任を押し通す男の正体


第十三夜「無表情な女」


大企業のサラリーマンである以上、転勤の可能性はゼロではない。

そのことを分かってはいたものの、夫の会社は社員のうち9割は東京本社で仕事をしていたので、すっかり油断していた。

しかし、辞令は突然だった。

「え?名古屋に転勤?そんな…マンション買ったばかりなのに?いつから?」

夫の電話に、抱っこしていた息子をソファにおろして、急いでスマホを右手で持ち直す。

「プロジェクトリーダーになったからには、できるだけ早く現地入りしたほうがいいんだけど…来月からが現実的かな。たぶん1年半、長くて2年だと思う。今日帰ったら相談しよう。だけど、美玖は病院のこともあるし、無理してついてこなくて大丈夫。俺が毎週末東京に戻ればいいんだ」

「単身赴任てこと…?」

私は動揺して、それから絵を描きはじめた2歳の息子を見た。

来年秋の幼稚園受験が頭をよぎる。最初から数年と決まっていればついていくが、来年の受験終了後のタイミングで戻ってくるとなると、希望の幼稚園に入るのが難しい。

なにより、夫の言う通り私には甲状腺の持病があり、最近は調子がいいけれど長い間お世話になっているかかりつけの大学病院が東京にあった。

「うん…わかった…由紀夫さんも今夜は早く帰ってきてね」

早く帰るよ、と夫はとても優しい声で電話を切った。どうやら彼は日頃から出張が多いせいか、転勤というより平日は名古屋勤務、くらいの気持ちのようだ。

夫とは対照的にキャパの少ない私は、なんとか動揺する気持ちを抑えようと、引っ越してきたばかりのタワーマンションの窓からレインボーブリッジを見た。

夕闇が、いつの間にか、部屋を密やかに包み込んでいた。

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