男と女の怪談~25歳以下閲覧禁止~ Vol.7

なぜか夫が私の行動を把握してる…?背徳の美人妻が感じた、優しい夫への違和感

そんなアプリは無用


「いってらっしゃい、耕司君。帰りは19日だよね。気を付けてね。大阪のお土産ってなにかな?楽しみにしてる」

ことさら饒舌になるのを、必死に抑えながら、3泊分をまとめたキャリーを渡す。

「耕司君がいないと寂しいから、私も麻美や奈々でも誘ってアマン東京あたりにおこもりして、スパ三昧しよーうかなあ」

万が一、よく小説にあるように、出張が早く終わってサプライズ帰宅などということになったとき、私が不在なのはまずい。

そんな時、たとえ連絡がつかず一晩帰らなくても、女友達ときゃっきゃと近くのホテルにいたと言えば、言い訳がたつと考えたのだ。

もしそうなったら、頼めば口裏を合わせてくれそうな親友の名前をあいまいに出しておく。

「いってらっしゃーい」

ひらひらと手を振って送り出すと、私は喜びいさんで、クローゼットに隠していた自分のバッグをひっぱりだした。




「うわあ、これ、ほんとに湖なの?海みたい。冬の静かな海」

正午の飛行機に乗り、新千歳空港から40分ほどの支笏湖温泉にたどり着いたのは、15時頃。

わずか数時間で、私は身も心も夢見心地の別天地にやってきた。

「ここ、札幌からも空港からも近いのに、混んでないしすごく素敵だから、きっと凜々花喜んでくれると思ったんだ」

自分の札幌出張を終えてすぐ、支笏湖にレンタカーでやってきたリクと、湖の湖畔で再会したときは、思わず人目もはばからず抱き合った。

世界には私たちしかいないと思わせるほど、冬の北海道の湖は静謐で人気がない。

「もうチェックインしてきたよ。部屋はそれぞれ離れになってるから、誰にも会わなくて済む。もう我慢できないよ、湖なんてどうでもいいからはやく入ろう」

いつもはベッドを急かされてる気がしてモヤモヤするそんなセリフも、この幻想的な風景の前では最高の演出だった。

「そうだね。いこ、リク。大好きだよ」

そう囁きながら、キスをして、湖畔をあとにしようとした瞬間。

「りりちゃ~ん、迎えにきたよ~」

「!?…こ、こう…どうして…!?」

頭が真っ白になる。

大阪にいるはずの夫が、満面の笑みでそこに立っていた。

今回はさらに用心して、インスタの裏アカにもまだ何もアップしていない。彼がそれを万が一監視していたとして、知りようがないはずだ。

はっとしてリクを見ると、へらへらと引きつり笑いを浮かべ、後ずさりしている。

不思議なことに、ハンサムなリクが、なぜか熊のような風貌でにこにこしている夫と並んでいるというのに、圧倒的に格負けしているように見えた。

「どうも、いや、あの、誤解なんですよ」

体を奇妙に揺らしながら言い訳をする態度に、私は心底失望する。もちろん奪ってほしいなどと思っているわけではないが、あまりにも卑屈な様子は、私とのことがただただ遊びだと白状しているようなものだ。

しかし耕司君は、そんなリクがまったくそこに存在していないかのように、にこにこと言葉を続ける。

「りりちゃんさ、僕、目が覚めるまでちょっとほっとこうって思ったけど、これはダメ。さすがにね」

「どうして、ここにいるのが、わかったの」

ひたひたと恐怖が押し寄せる。インスタの裏アカを見られているかと疑ったことはあったが、もしかして、それどころか…。

「何か、監視アプリみたいなの、作ったの?私の携帯になんか細工した?」

よくドラマなんかでみる、相手のいるところが立ちどころにわかるアプリ。天才エンジニアと言われた耕司君なら、簡単に駆使するだろう。もしかして自分でつくることもできるのかもしれない。

怒りと怯えがないまぜになり声が震える私を見て、耕司君は盛大にぷぷぷと吹き出した。

「りりちゃんのためにこの僕がわざわざアプリ作ったりしないよ~!家中の監視カメラと盗聴器があれば、裏アカ見たりLINE転送チェックしたりはあんまり出番なかったな」

その瞬間、私の頭の中に、冷たい水槽でひらひらと泳ぐ熱帯魚が浮かんだ。

どんなにその快適な水槽でいい気になって泳いでも、その様子さえ、ただの観賞用。

「イタズラの証拠も、イケナイ写真も撮れちゃったけど、僕はそんなもの裏アカにアップしたりしないよ。もめたり別れたりする気はないんだ。りりちゃんが羽目を外しすぎたら、ちょっと指導するけどね。さあ、帰ろ。僕たちのおうちにさ」

私はふらつく足取りで、耕司君に肩を抱かれ、湖畔を後にする。リクを振るかえることはできなかった。

どこかでがちゃんと音がする。

それはたしかに、牢獄の扉のかんぬきのような音だった。


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