2019.05.22
元・夫婦 Vol.2ある日突然、急なプロポーズを受けた美月
予想もしていなかった展開に驚いて、うまく返事ができなかった。「私にも仕事が…」と、もごもごと繰り返す美月を見て、裕一郎はクスクスと笑ったのだ。
「俺は、美月と一生一緒にいたいんだ。その夢を叶えられるのは、美月しかいないんだよ」
そして、真剣な裕一郎のプロポーズに心を揺さぶられた美月は、いさぎよく結婚を決意をする。そのあとは自分でも驚くほどあっさりと会社を辞め、一か月後にはニューヨークで新婚生活を送っていた。
海外のトレンドに憧れる美月にとって、ニューヨークは夢の街だ。もし、この駐在の話がなければ、すぐに結婚を受け入れることはなかったかもしれない。
―この結婚、そして海外移住は必ず自分の次のキャリアにつながるはず…
本来駐在妻は家族帯同ビザが夫の会社から発行される。ただ、裕一郎の会社は駐在妻のキャリアにも寛容で、仕事を持つことを禁止していない。
それは美月にとって願ってもいない待遇だった。
裕一郎の仕事と生活が落ち着く間もなく、美月は動き出す。
煩雑な手続きを経て、渡米してから半年後にようやく就労ビザを手にした美月。
初めはネットで仕事を募り小さな翻訳記事から始め、徐々に仕事の幅を広げ、映画や音楽をプロモーションするという学生時代の夢に少しずつ近づいていった。
そして翻訳の仕事が起動に乗り始めると、エンターテインメント系のエージェントを探して自分を売り込み始めるようになる。
アーティストやモデルが日本で展開するにあたって、ウェブサイトのローカライズや、日本のプロモーターの紹介など、これまでの経験やツテを使って、何かしら力になれるはずだと考えていた。
裕一郎の仕事も、自分のキャリアも順調だった。少なくとも美月にはそう見えていたのだ。
会社の中で、ニューヨーク赴任は出世コース。親のコネというのはある時期を過ぎると足かせにもなるが、裕一郎はそれをものともせずに仕事に没頭し、結果を残し続けることに成功している。
「私も、裕一郎に負けないように頑張るね。今日は、SOHOに行ってエージェントに会ってきたの。明日は…」
美月は、目を輝かせて憧れの街での奮闘を裕一郎に伝えた。
「裕一郎に負けないように」
今ならばわかる。これがどんなに愚かな言葉かということが。
夫婦で勝ち負けを競って、なんになるというのだろう。
ある夜、裕一郎は美月の興奮を鎮めるように、静かな口調で言った。
「今週末、駐在員たちのパーティーがあるんだ。家族同伴で。こっちではそれが当たり前だから」
「え?それ、私も行くの?週末はようやく代理店の人を取り次いでもらって…」
自分の都合を優先させようとした美月に、この時の裕一郎は咎めるような視線を送った。
「美月」
冷たい声で美月の話を遮ると、「必ずパーティーに参加するように」と、強い口調でそう付け加えたのだ。
しかし諦めきれない美月は、裕一郎が納得してくれるまで何度も丁寧に説明し、自分のアポイントを優先させた。
どれだけこの約束を取り付けるのに苦労したか、どれだけ大きなチャンスを掴みかけているか。これを逃したら、すべてが水の泡になってしまうかもしれない。どうかキャリアを応援してほしいと、裕一郎に懇願したあの夜。
裕一郎ならきっと理解して、認めてくれる。そして美月の生き様を尊重してくれる。
美月はそう信じていた。
ようやく納得してくれた裕一郎は「わかったよ。頑張っておいで」と、やけに穏やかな口調で承諾してくれた。
今思えば、あれが悲劇のはじまりだったのだ。
あのパーティーで裕一郎は、美月を捨ててまで一緒になりたいと思う女性と出会ったのだから…。
その女性は、けなげに生きるシングルマザー。
裕一郎はあのとき、ニューヨークで流行っていたいちご味のスウィーツを度々買っていた。二人とも甘いものは苦手なはずなのに。
不可解な行動だったがあえて何も言わずにいると、彼は勝手に言い訳を始めたのだ。
「取引先のお嬢さんが、いちごが大好きなんだ」
目をそらして、ばつが悪そうにしていたことを思い出す。
◆
隣の部屋から小春の楽しそうな笑い声が聞こえてくる。和也と世間話で打ち解けたのか、談笑しているようだ。大好きなイチゴミルクですっかり機嫌を直したところを見ると、やっぱりまだ中学生なんだなと思う。
「小春ちゃん、大きくなったわね。あのときの子が…」
甘ったれの裕一郎がシングルマザーの連れ子の父親になんてなれるはずがないと思っていたけれど、その予想は裏切られたようだ。
「なんとか、やってるよ。年頃だから難しいけどな。美月は、どうだ」
「まあ、この通り」
そう言って首をすくめた美月。
このどうしようもない現実に悩んだ美月は、ふと脳裏に浮かんだ“ある男”に連絡を取ったのだった。
▶Next:5月29日 水曜更新予定
離婚以来、恋愛は遠ざけてきたけれど…。誰かに寄り添いたい夜、美月の隣にいたのはまたワケあり男だった…?
駐妻は駐妻らしく、夫の帰りを静かに待つのが正解だったのなら、それは価値観が違ったとしか言いようがない。
太陽のような美月には、月のように陰から暖かく見守ってくれる人がいいね。
男女逆で言えば、出産の時に「大事な接待があるんだ。これを失敗したら大事な取引がなくなるかもしれない」なんて言われたら、大きな遺恨が残るでしょ。
バリキャリを傘に自己中してる人には、そこのところ考えて欲しい。
そう言う人なら日本に戻るような気もするから、暮らしぶりや彼女の人となりも次回以降で明らかになると嬉しいです😆
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