港区女子に芽生える違和感。元モデル・現ヨガ講師の運命を変えたのは「あの街」だった

代々木上原との出会い


「奈緒さんが行きそうなお店でもないし、カジュアルな感じだし、お誘いするのは恐縮ですが…」

そう言いながら、ヨガ講師の後輩にあたる紗弥香が誘ってくれたのは、代々木上原に新しくオープンしたバルのオープニングパーティーだった。


オープニングパーティーと言っても港区的な華やかなものでもなく、豪勢な花も出ていなければ、皆がピンヒールで肩か脚を出しているような戦闘服で集っているわけでもない。

男性もスタッズ付きの靴や鞄を持っている人なんて一人もおらず、ギラついていない。

ただただ、暖かな温もりで溢れていた。

「何だかアットホームで素敵なお店だね」

そこに集っている人たちは、ご近所さん達なのだろうか。女性陣は髪をラフにまとめ、リラックスムード漂う装いだった。

髪をしっかり巻き、タイトスカートで来てしまった自分の場違いさに気がつき、少し恥ずかしくなって店の奥の方で小さくなっていた時だった。不意に話しかけてきた男の人がいた。

「この界隈、よく来るんですか?」

声の方に視線を向けると、カジュアルなTシャツに細身の黒パンツ、というシンプルな装いの爽やかな好青年が立っている。

「あ、いえ。友達に誘われて来ただけで…家が青山なので、あまり代々木上原の方には来ないんです」

「やっぱり? とっても華やかだから、目立っていますよ」

その男性は、アパレルに勤務しているらしい。アッサリとした塩顔に、爽やかな笑顔。今まで周囲にはいないタイプだった。

屈託なく笑う顔には少し幼さも残っており、小動物のような、ほっとするような人懐っこさも併せもっている。

「僕、和樹って言います。代々木上原、良い所ですよ。きっと、好きになると思います」

その日は青山と代々木上原、お互いの街の魅力を教え合う約束をし、LINEを交換して別れた。

港区男子とのデートの先に見えたもの


「何飲む? とりあえずシャンパンでいいよね?」

港区男子・賢介が連れてきてくれた店はたしかに素晴らしいお店だった。美味しい食事に豪華な内装。


でも注がれたシャンパンを見ながら、また胸のうちがザワザワと音を立て始めた。

「普段、どこでご飯食べてんの? ヨガ講師って、稼げんの?」

ズケズケとした賢介の質問に、曖昧な笑顔を浮かべる。

丁寧に巻いた髪、ハイブランドの9cmのピンヒール。お店に失礼のないように、賢介に失礼のないようにきちんとしてきたが、今日は何だか落ち着かない。

――なんだろう、このいつか何処かで見たような景色は…

何度も繰り返し、体験してきた。煌びやかな店に集う、華やかな人たちと繰り広げる無機質な会話。

港区の夜は、毎晩同じパターンの繰り返し。そこに集う人もしかり。個性があるようで、意外にない。

「俺の知り合いもモデルと結婚したけど、みんな外資系が好きなんだね〜」

多分、賢介に悪意はない。そして以前の私だったら、こういうタイプが大好きだった。

良い給料に、良い暮らし。それが手に入るならば、多少の性格の悪さは目を瞑るし、彼らの持つ物や肩書きで男性を判断していた。

「今さ、車買い替えようか悩んでいて。今の車も良いんだけど…」

賢介の言葉が、遠のいていく。どうしてだろうか。

シャンパンの光り輝くゴールド色が、突然セピア色に色褪せて見えた自分がいた。

この記事へのコメント

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No Name
スタッズ付きの靴や鞄に吹いた (笑) 確かに最近よく見るし www
2018/08/28 06:4311返信1件
匿名
街並みや、好みの男性👨は、人それぞれの価値観…🙈
2018/08/28 06:126
No Name
ヨガ講師
友人にもいますが実際仕事として
どうなのか不思議です。
2018/08/28 07:146
もっと見る ( 19 件 )

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