“堅実”に勝る、男の長所
その日を境に、麻衣はオサムとデートを重ねていた。
メガバンクの出世頭という好条件に、34歳なりの落ち着きと包容力。麻衣とはやはり結婚を視野に入れた関係を望んでいるようで、彼は超安泰の優良物件に違いない。
しかし、真面目一本のオサムと一緒にいると、どうしても正反対の賢人と比べてしまい、麻衣はなかなか一歩踏み切れずにいた。
あの表情の豊かさや、麻衣をからかう時のSっぽい口調。ドキドキさせられたり、時には苛立たされ、不安にされたり。
だが、オサムも食事デートだけではなく、そろそろアクションを起こそうとしている。
「麻衣さん、良ければ来週はうちに遊びに来ませんか?」
「えっ...」
そして、麻衣が返答に戸惑ったとき、テーブルに分厚い財布がドン、と置かれた。
お札やレシート、小銭やカードでパンパンに膨れ上がった財布。ふと視線を落とすと、その財布が入っていたスーツのお尻のポケットも、生地が少し伸びていて不恰好だ。
それを見た瞬間、麻衣の脳裏には、スマホ一つでスマートに会計をする賢人の姿が鮮明に蘇った。
—やっぱり、違う...!
別に、オサムが悪い人という訳ではない。
だがこの時麻衣は、若々しく、全てにおいてスマートな賢人に惹かれていることに気づいたのだった。
◆
「麻衣さんからの誘いなんて嬉しいな。最近冷たかったのに。どうしたの?」
勇気を振り絞った麻衣の食事の誘いに、賢人はいつものようにノリよく応じた。相変わらず身軽な装いで、スリムなスーツをパリッと着こなして登場した彼。
その悪戯っぽい笑みを前にすると、麻衣は素直に気持ちを伝えられる訳もなく、やはりツンツンと冷めた態度を取ってしまう。
「そういえば...。この前は急に帰って、本当にごめんなさい」
だが、珍しく背中を丸くして頭を下げた賢人に、麻衣は目を見張った。
「実は俺、妹がいて...。もう結婚してるんだけど、すごい我儘な奴でさ。あの日、旦那と喧嘩したって言って俺の家に押しかけて来たんだ。だから...」
恥ずかしそうに事情を説明する賢人だが、そこには妹への愛情が滲み出ている。麻衣はホッと胸を撫で下ろすと同時に、家族思いの彼を見直してしまった。
「意外と、面倒見がいいのね」
しかし、よくよく考えれば、当初はただのお調子者のイケメンとしか思っていなかったが、一緒に仕事をするうち、27歳にして海外駐在や転職で経験を積んだ賢人に尊敬も生まれていた。
“エリート銀行員”というオサムの安定のスペックも魅力的だったが、麻衣にとっては“安定”よりも“将来性”、“真面目”よりも“スマートさ”が勝ったのだ。
「あ、お会計はLINE Payで」
その日も賢人は、会計時にそう言ってスマホを取り出した。
そしてその瞬間、麻衣は自分でも驚く言葉を口にしていた。
「...私、賢人くんが好き」
突然の告白に、賢人は呆気にとられた様子で固まっている。たが、しばしの沈黙の後、やっと口を開いた。
「マジすか...。俺、麻衣さんと両思いになれるなんて思ってなかった」
スマートな賢人に惹かれた麻衣だが、顔を赤くして動揺した年下らしい可愛さを見せた彼にも、胸がキュンと疼くような愛しさを感じた。
―Fin
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