仕事を通じて知り合った由美は、月に数回のペースで会う相手だ。飾らない性格で、まだ恋人ではないが一緒にいると心が休まる。今まで派手に遊んできた自分も、そろそろ由美のような女性と落ち着きたいものだと、会う度に思う。
その由美が、「結婚を考えていた彼と別れることになった」と泣きながら電話をかけてきたのは、昨夜遅くのことだった。慰めつつも「彼女を振り向かせるなら、今しかない」と火が点いた。
次の日は早めに仕事を切り上げて、銀座1丁目へ向かう。1軒目は、『銀座KAN』。渋谷の『高太郎』も輩出した池尻『KAN』の系列店だ。気取らない雰囲気で、夜遅くまでゆっくり話ができる、和食の店を探していた。
『銀座KAN』に女性と一緒に行くならば、カウンターが必須である。大きく広がった橡の木のカウンター席に、いつもより華奢に思える彼女を見つけた。
この店の突き出しは、好きな素材を選べ、食べ方もリクエスト出来る。「何にする?」とのぞき込むと、新鮮で美しい食材を前に、泣き腫らした彼女の顔に......
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