二人の男で Vol.2

二人の男で:女に嘘をつかせたのは、危険な男。女が逃げ出したくなったのは、誠実な男

年上男の巧みな話術。警戒心を解いた女が落ちた、甘い罠とは...


英一郎は、明らかに女慣れした、余裕に満ちた大人の男だった。

最初に嫌な思いをさせられたにも関わらず、彼の話術は巧みで、詩織は知らぬ間に警戒心を緩めていた。不意に子供のように無邪気な笑顔を見せたり、「俺はもう年寄りだから」と、さり気なく自虐を交えて笑いを誘ったり。

ワインにも詳しく、仕事柄海外にも頻繁に足を運ぶという英一郎との会話は、詩織にとって興味深いものでもあり、ペースに乗せられるうち、無意識に会話を楽しんでいた。

「詩織ちゃん、ちょっと手を見せて」

「え......?」

戸惑う詩織にお構いなしに、彼はさっと手を取り、顔を近づけて丹念に観察する。

「華奢で綺麗な手だね。手入れもちゃんとされてる。イイ女は、手を見れば分かるんだよ」

英一郎は優しく手を握り、狙いを定めたように目をじっと見つめて言った。その瞬間、詩織は一気に顔が赤くなってしまうのを感じた。

握られた手を咄嗟にひっこめて平静を装おうとしたが、英一郎は心を見透かすように、詩織の横顔をニヤニヤと見つめている。

「肌も真っ白で綺麗だし、本当にイイ女だなぁ」

「軽々しいことを言うのは、やめてください...!」

詩織は再び英一郎に辱められたように思え、怒りを露わにした。遊び人風の年上男に簡単に弄ばれるなんて、プライドが許さなかった。

不自然にならないようにその場を取り繕い、詩織は逃げるように中座した。しかし本当は、怒りの感情よりも、高鳴る心臓の音と、丸裸にされてしまったような恥ずかしさに耐えられなかったのだ。

それは野生の勘とも言える、女としての本能的な危機感でもあったのかも知れない。


結婚したくないわけではない。でも、逃げたくなる


「ねぇ、そろそろウチの親に、しーちゃんを紹介させてよ」

ある日の晩、中国・青島の日帰り便で疲労して帰宅した詩織に、正男は甘え口調で言った。最近、このような会話は以前より増えている。

「うーん...でも、私たちまだ付き合って半年よ?ちょっと早いんじゃないかな...」

CAの仕事は嫌いではないが、丸1日、中国客を相手に働き、体力も神経もすり減った詩織に、余裕はほとんど残っていない。

正男のことは好きだが、あまりにストレートな愛情を向ける彼から、時々逃げ出したくなるような気持ちに駆られるのも事実だ。特に、疲れているときは。

「何で?だって、しーちゃんは仕事も体力的に大変そうだし、早く将来について考えた方がいいよ。妊娠なんかもさ、CAさんは電磁波をたくさん浴びるから、良くないって聞くじゃん」

「.........。」

感情的な言葉を喉元にぐっと押し込み、詩織はどうにか口元だけで大人の女らしく微笑んだ。

言い争いなんて、無意味だ。鬱陶しい恋人を黙らせるべく、詩織は彼の腕の中にするりと滑り込むことにした。

この記事へのコメント

Pencilコメントする

コメントはまだありません。

【二人の男で】の記事一覧

もどる
すすむ

おすすめ記事

もどる
すすむ

東京カレンダーショッピング

もどる
すすむ

ロングヒット記事

もどる
すすむ
Appstore logo Googleplay logo