「ところで、前田さん、先ほどコンソメスープを飲んだのを覚えてますか?」
「ああ、はい。お通しで出てきたスープですよね。あのスープもおいしかったです~」
軽い感じで彼女が言いましたが、私はズイッと上体を前に傾け、両手を顔の前で組んで言いました。
「あのコンソメスープは――様々な具材を煮込んで作られたものです。それは、言うなれば、AKBのように多くの人たちが力を結集して生み出すおいしさだと言えるでしょう。しかし……」
そして私は前田敦子の目の前に置かれた皿を指差して言いました。
「この黒毛和牛はそのスープに使われていた具材なのです!そしてこのメインディッシュの黒毛和牛のステーキこそが、女優・前田敦子――あなたなのですよ!」
すると前田敦子はこう答えました。
「なんじゃそら(笑)」
(そ、そんな――)
完全に拍子抜けした感じの前田敦子に対して私は熱弁しました。
「い、いや、前田さんはAKBでご活躍されていた時期は周りに仲間もいっぱいいましたが、今は一人で活動されているので孤独感や不安を味わっているのではないかと思い、こうして、コンソメスープから、メインの和牛を食べてもらったわけなんですよ!」
すると前田敦子は言いました。
「今は、別に孤独じゃないですよ。仕事がすごく楽しくて充実してます」
「ええっ⁉」
「もちろんAKB時代も楽しかったし、勉強になったこともたくさんありましたが・・・
卒業してから、やっと社会で独り立ちできたという感覚なんです。だから毎日が楽しくて」
その言葉を聞きながら私は思いました。
「アシスタントのO、クビにしたろかな」
――ただ、今回食事をして気づかされたのは、国民的有名人とはいえ前田敦子も一人の女性であり、変にAKBに絡めて考える必要はなく――
その意味で、景色の良いお店で彼女の好きな料理を用意できたのはOのおかげであり、
「フライとナゲット」を用意しなくて本当に良かった
と思いました。【完】
■プロフィール
まえだあつこ 1991年、千葉生まれ。2012年にAKB48を卒業後、女優として活躍の幅を広げる。沖田修一監督・脚本『モヒカン故郷に帰る』が公開中。
TBS系ドラマ「毒島ゆり子のせきらら日記」(毎週水曜24:10〜)では独特の恋愛観を持つ大物政治家の番記者を熱演中
衣装:ドレス¥51,000〈 シャルル アナスタス〉、ブローチ¥9,000〈 ヤズブキー/ともにDiptrics☎03-3409-0089〉、シューズ〈スタイリスト私物〉
みずのけいや 1976 年、愛知県生まれ。『夢をかなえるゾウ』シリーズは300 万部、『人生はニャンとかなる!』シリーズは180万部を突破する、人気タイトルを多数持つベストセラー作家。
現在放送中のドラマ「私 結婚できないんじゃなくて、しないんです」(TBS系毎週金曜22:00〜)の原案『スパルタ婚活塾』が好評発売中!
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