『少しでも早く会いたいから』
文字だけで胸がギュンとなる。大輝の愛情表現には迷いがなく、付き合って3ヶ月ほど経った今も、日に日に甘くなっている気もする。『わかった、連絡するね』と打ち返した時、「大輝か?」と、戻ってきたミチに、ともみは慌てた。
「な、なんで…?」
「うっすらにやけてるし。あと顔も赤い」
ともみが自分の頬を触ると、ミチは意地悪に口角を上げ、カウンターに入った。
「うまくいってるようで、なにより」
氷を削り始めたミチに、ともみは照れをごまかしながら話題を戻す。
「ルビーが泣いてたのは…告白を断られたせい、だった、ってことですか?」
数時間前に抱き合っている2人を見た時、ともみは、ルビーが自分の母親のことをミチに相談し、涙したのだと疑わなかったのだけれど。
「母親のことをオレに話して泣いた、ってともみは思ってたわけだよな」
ともみが頷くと、ミチはほんの少しためらいを見せてから、「まあ、ともみにならいいだろ」と続けた。
「母親の話もしたよ。なんであんな言い方しかできなかったんだろう、とは言ってた。でも当然だろう。6歳で捨てられたんだ。怒りを爆発させる権利はある。たとえ母親側に――どんな事情があったとしても、な」
「ミチさんは、明美さんの事情をどれくらいご存じなんですか?」
ルビーが働いていた六本木の店に向かった明美はトラブルに巻き込まれた。それを救ったのはミチであり光江で、光江はその後も明美と連絡を取り続け、今回、ルビーに明美の居場所を伝えたのは光江だ。ということは、ミチも。
「…どれくらい、もなにも。たぶんほとんど知ってるんだろうな」
やっぱり、と、ともみは続けた。
「今まで、その明美さんの事情を、ルビーに話そうと思ったことはないですか?」
「一度もなかったな。オレにはルビーの気持ちが分かりすぎる。どんな事情だろうが、大人の勝手な後付けにしか思えないもんなんだよ。待ち続けた子どもにとってはさ」
分かりすぎる、という響きは重かった。ミチの過去について、15歳で光江に拾われたということ以外を何も知らないということが、なぜか今、とても寂しいとともみは思った。
「でも、お前は違うだろ」
不意打ちのように、ミチの声が和らいだ気がして、ともみはまた小さく首を傾げた。
「ともみはオレたちとは違う。だから母親の方に同情することもできるんじゃないか?オレにはできないことが、ともみにはできる」







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