うまく説明できねぇけど、と濁したミチは、自分も飲まずにはいられなくなったのか、マッカランを小さなビールグラスに注いでいく。軽く捲られた袖口から覗く腕の逞しさに反して、所作は指先まで整い、静かで柔らかい。
「キレイ」
思わずそうこぼしたともみに、グラスにソーダを足そうとしていたミチの手が止まる。
「あ、いや、ミチさんがお酒を作る動きが、改めて美しいなって。光江さんに叩き込まれたんでしたっけ?」
「…ああ、バックレてやろうかと思うほど厳しくな。でもまあ、いつのまにか癖になるもんだ」
「所作が粗いバーテンダーの酒はまずい」とは、西麻布の女帝こと光江の口癖のようなもので、実はともみもTOUGH COOKIESを任されることになった時に、ミチから猛特訓を受けた。
酒を作ることは初めてだったが、“美しく素早く、美味しく”という難易度に燃えるタイプだったこと、演じるという経験から型を覚える要領の良さがあったことが功を奏し、光江に「ハリボテだけど、なんとか許されるだろ」と、最低ラインだと念押されながらもなんとかTOUGH COOKIESのオープンに間に合わせることができたのだが。
「なんでこんなに、ミチさんのお酒は美味しいんだろう」
マッカラン・クランベリーを口に含んで、改めて思う。ミチが作るレシピと全く同じレシピをともみも持っているはずなのに、自分が作るものとは何かが違うのだ。
「経験値の差なら…いつか追いつけるのかな」
「追いつく?」
「一生懸命練習すれば、いつか私も、ミチさんみたいなお酒が作れる日がくるのかなって」
「なるよ。でも、別に酒をうまく作ることだけが、店の魅力につながるわけじゃない。ともみが目指すものが何かって話だ」
「私が、目指す、もの…どんな店にしたいかってことですか?」
「別に店だけの話じゃなくてさ――そういえば、そろそろ光江さんとは…」
思いもよらず光江の名前が出て、ともみが首を傾げた時、すみませ~ん、と呼ばれたミチがテーブル席の方へ向かい、ともみの携帯が鳴った。
『勇太が大泣きしててまだ帰れそうにない、ごめん。ともみは今どこ?』
失恋した親友に呼び出されている大輝からだった。体育会系の柔道部出身の勇太が、大きな体で大輝に縋り嘆く姿を想像しながら、『Sneetにいるよ』と返信すると、すぐにまた返ってきた。
『店出る時、一応連絡してくれる?間に合えば迎えに行きたい。少しでも早く会いたいから』







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