A1:お金がかかりそうだし、他に誰かいるのかなと思った。
朱莉と出会ったのは、僕の同期が開催した2対2の食事会だった。
― 可愛い子がいるな。
そう思い、最初から僕は朱莉に狙いを定めてすぐに行動に移した。
「朱莉(あかり)ちゃんって呼んでもいいですか?」
「もちろんです」
「朱莉ちゃん、すごく可愛いよね」
朱莉にだけ話しかけ、彼女を褒める。こうすると大体女性は喜んでくれる。
「そんなそんな」
「たぶんすごくモテると思うけど、朱莉ちゃんのLINEとか聞いてもいい?」
そしてすぐに連絡先を聞く。
「次は二人で会いたいな。デートに誘ってもいい?」
連絡先を聞いた後の、アフターフォローも忘れない。ちゃんと男の方からデートに誘い、実際に次のデートを実行する。この流れが大事だと思う。
結果、翌日朱莉をデートに誘うと、喜んで来てくれた。
1週間後、僕たちは六本木にある『YAKITORI燃(ヤキトリ モエ)』でデートをすることになった。
僕の会社が六本木にあるため、会社の近くに彼女を呼んだが、今日も朱莉は嬉しそうにしている。ただ、焼き鳥を食べながら朱莉と話しているうちに、少し怖くなってきた。
「六本木あたりでよかった?僕の会社が近いから、早く会えるかなと思って」
「うん。普段からこの辺りにしかいないから、嬉しい」
― 六本木界隈にしかいないってこと?もしかして…港区女子系?
思わず身構える。しかも、朱莉が住んでいる住所を聞いてさらに謎が深まってきた。
「そうなの?朱莉ちゃん、お家はどこ?」
「私は表参道だよ」
「表参道?すごい所に住んでるね」
表参道に、ひとり暮らしの女性が住む家はあるのだろうか。あまりそのイメージがないし、そもそもお金持ちの誰かと住んでいるのかもしれない。
「そうかな。雄大くんは?」
「僕は人形町のほう」
「あれ?会社は六本木だよね?」
「うん。朱莉ちゃんは自分で会社をやっているんだっけ?」
「一応ね。小さな会社だけど」
「すごいよね。僕みたいなしがないサラリーマンとは全然違う」
僕は所詮、日系のサラリーマンだ。表参道に住むのは難しそうだし、そんな余裕はない。
― そうか、朱莉は自分で会社を経営しているんだもんな…。僕で相手が務まるのか?
そんなことを考えながら、僕は薫香を纏った焼き鳥を頬張る。
そして、デートなので一応こちらで会計を済まし外へ出ると、朱莉が2軒目へ誘ってきた。
「雄大くん、まだ時間ある?よければもう1軒行かない?私の行きつけのバーがあって」
― どうしようかな…。そもそも、行きつけのバーとかあるタイプなんだ…。
さっきの会話からして、朱莉の世界のスタンダードは港区界隈に住み、高級なバーでグラスを傾けることなのだろう。
そうなると、彼女の行きつけのバーがどのレベルなのか大体想像がつく。そこへ行くと、一体いくら請求されるのかも不安だし、そもそも行きつけのバーを持って港区に住んでいる女性はちょっと怖い。
さらに正直に言うと、僕の年収レベルでこのデートが続くのは少しきつい。数回ならばいいけれど、毎回となると一度のデートで結構な額が飛んでいく。
「あー…ごめん。明日朝が早いのと、終電とか気にしたくなくて。今日は帰ろうかな」
そう言うと、朱莉は心底がっかりした顔をした。
「そっか、電車の時間があるんだ。じゃあ仕方ないね。また会えるかなぁ?」
「もちろん!また連絡するけど、来週木曜とかどうかな?」
「いいね。じゃあ来週木曜に」
きっと朱莉は電車にも乗らないだろうし、タクシー移動だから“終電”なんて気にしたことがないはずだ。
でも別に朱莉自身は良い子だし、別にこちらにガンガン迫ってくるわけでもない。ここで切るのは勿体無いし、もう少し会って見極めてみたい。
そう思ったから、比較的早く次のデートを実行した。







この記事へのコメント
朱莉も、勝手な脈アリ判断してグイグイ攻めたら引かれる事くらい分かれよと思った。 逆に考えた時、まだ二度目のデートで好きになれるか微妙な男子から手を握られてポケットに入れられたらガッつき具合に冷めるから。