「あ、うん、ちょっと知ってるくらいだけど…」
遥斗は濁して答えるが、動揺は隠しきれない。
香澄と最後に会ったのは半年前。それなのにもう結婚するのかと思うと、切ない気持ちとともに、なぜか焦燥感に駆られた。
結局明里とはなんとなくうまく行かず、会ったのはその一度きりだった。
それからも、遥斗は相手探しを続けた。
ニューヨークで出会う人は、母国を離れて挑戦しているせいか、男女ともに自立していて個性が際立ち、どこか惹きつけられる人が多かった。
それでも、友達になりたいと思う人は沢山いても、心が大きく動く人には出会えない。どうしても莉乃のことが頭から離れなかった。
ある晩、思い切って、莉乃にメッセージを送ってみる。
「今週末、空いてる?どこか行かない?」
莉乃とは時々メッセージのやり取りをしていたが、あまりこちらから誘うと嫌がられるし、必死な感じが格好悪い気がして、積極的に誘ってはいなかった。
緊張しながら返信を待っていると、一時間ほどして返ってきた。
「うん、大丈夫。セントラルパークでのんびりしよ」
莉乃からの返信には毎度心が躍る。遥斗は「よし!」と一人で小躍りした。
◆
土曜日の午後。
二人はセントラルパークに来ていた。
遥斗はレジャーシートを敷き、途中で一緒に買ったサンドイッチとデザート、コーヒーを用意する。
昨日の晩ChatGPTに聞いて、公園デートには何が必要かを教えてもらった。
「素敵。ありがとう」
莉乃がにっこりと笑いかける。それだけで遥斗の心は満たされた。
二人で食べた後、仲を深める時間だと意気込んでいた遥斗の隣で、莉乃はおもむろにカバンから分厚い本を取り出し、寝転がって読み始めてしまった。
― え、そんな感じ?もっと二人で会話を楽しむもんだと思ってた…。
周りを見てみると、他にも同じように寝転がりながらそれぞれ思い思いに過ごしている。
遥斗は仕方なく、自分も寝転んでみる。
6月のニューヨークの乾いた風が心地よく吹き抜け、やわらかい木漏れ日が芝生を黄金色に染める。深呼吸をすると、緑の香りがふんわりと鼻をくすぐった。
すると莉乃が寝返りを打ち、遥斗に顔を近づける。目が合い、莉乃は嬉しそうに微笑む。
― こんなデートも悪くないな…。
莉乃の額にかかった髪を優しく撫でながら、遥斗は幸せな気持ちに浸った。
けれど、夕方になりご飯にでも行こうかと提案すると「ごめんね、この後友達の集まりに呼ばれちゃって」と、莉乃は行ってしまった。
会えばやっぱり好きだと思う。けれど、今の中途半端な関係は苦しい。
莉乃が何を考えているのかもわからないし、下手に追いかければ、蝶のように飛んで逃げていくような気もする。
モヤモヤとした気持ちを抱えつつ家に戻り、ソファの上に座ったところで、メッセージの通知音が聞こえた。
― 莉乃から…?
遥斗はすぐにスマホをポケットから取り出し画面を見る。
そこには、元カノ美沙の名前が書かれていた。
「遥斗、元気にしてる?まだニューヨークにいるんだよね?来週出張で行くんだけど会わない?」
一年以上ぶりに届いた、元カノからの連絡だった。
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大好きだった元カノと会うことになった遥斗。一方で莉乃のことも気になり…







この記事へのコメント
どちらか(相手を)見極めるのが難しいんだけど、莉乃は前者だと予想、止めといたほうがいい。