外泊できない香澄をホテルまで送り届ける。Uberの車内でも二人は手を繋ぎ、香澄は遥斗の肩に頭を預けた。
1秒でも長く一緒にいたい、と願う遥斗に、香澄が独り言のように囁いた。
「来年もこうして過ごせたらいいな」
その言葉に、胸が熱くなる。遥斗は香澄とこの先も長く続けられると、そう信じた。
「他のクルーに見られると気まずいから」と、ホテルのエントランスから少し離れたところで降ろす。
「ありがとう、またね」と微笑む香澄と離れたくなくて、思わず抱きしめた。香澄も離れ難いように遥斗を抱き返し、二人は別れを惜しんだ。
だが年が明ける頃、香澄からの連絡は徐々に減り、やがて途絶えた。
― どうしたんだろう?また今日も空の上?
不安が遥斗を襲う。CAという職業柄、忙しいのだろうと自分を騙しながら過ごす。
そして迎えた2月初め。「次はいつ会えるかな?」と送ったところ、ようやく香澄からメッセージが届いた。
「ごめんなさい、もう遥斗さんとは会えない」
遥斗は動揺しながら「どうして?」と送る。一体何がダメだったのか、見当がつかない。
数分後に返ってきた香澄からのメッセージに、遥斗は落胆した。
「ニューヨークの恋は私にとって、ひと夏の恋のようなものだった。素敵な思い出だけど、もっと地に足のついた恋愛をしたいの」
― 地に足がついた恋…?
正直、遥斗には納得できなかった。
「なんでだよ…」と思うが、これ以上何を言っても、一度決めた女性の心が変わることはないことを、元カノから学んだ。
「わかった。ありがとう。元気でね」と送り、二人はあっさりと終わった。
◆
翌日の早朝、遥斗がデスクで仕事をしていると、出社してきた二宮が開口一番に言った。
「なんか元気ないな、香澄ちゃんにフられたか?」
「え、どうしてわかったんですか?」
「え、マジで?」
二宮は眉毛を下げて驚いた後、やっぱりという表情を見せる。
「二宮さん、香澄ちゃんについて何か知っているんですか?」
理由がわからず悶々としていた遥斗は、二宮に答えを求める。二宮は言いにくそうに打ち明けた。
「俺も初対面だったし何も知らないけど、彼女は俺たちの手に負えるような女じゃない。いわゆる“ゴールドディガー”、つまり金目当ての女の可能性がある」
「どういうことですか?」
「そうだな、まず彼女の服や鞄、気がついていたか?あれはクワイエットラグジュアリーと言って、ブランド名などは目立たないけど全部ハイブランドだよ。Brunello CucinelliのコートやThe RowのMarloのトートバッグ、どれも50万を超えるよ。時計だってジャガー・ルクルトだぜ?
家柄がいいって可能性もあるけど、そうじゃなかったら、全て貢物かも。嫁のおかげで俺も詳しくなったけど、独身だったらわからなかったな」
二宮の口から出るブランド名が、遥斗にはどれも呪文にしか聞こえない。
香澄の服装はいつも上品だったが、ノーブランドで身の丈に合っていると思っていた。
「それに彼女の笑う時の首の角度から座る時の足の流し方、話す時の目線まで、あれはすべてが計算されているよ。
マンハッタンには、金目当ての女が本当に多いのは有名な話。だから気をつけろよ。まあ彼女の最終的に狙っているのは、俺たちサラリーマンではなく起業家、もしくは資産家や財閥の御曹司かもな」
確かに香澄は常に完璧で、ネイルが禿げているところも姿勢が崩れているところも見たことがない。
一体香澄の何を見ていたのかと、勝手に盛り上がっていた遥斗は恥ずかしくなる。
「二宮さん、俺、こっちに来てから惨敗です」
「はは、まあ次だ次。それも含めての恋愛だからな」
落ち込む遥斗とは裏腹に、二宮は楽しそうな顔をして笑った。
▶前回:「何も持って来ていないの?」S級美女とのデート終わり、プレゼントを期待された男が出した正解とは?
▶1話目はこちら:「あなたとは結婚できない」将来有望な28歳商社マンのプロポーズを、バッサリと断った彼女の本音とは?
▶︎NEXT:12月10日 水曜更新予定
次回、ようやく遥斗にぴったりの女性と出会うが、一筋縄では行かず…。








この記事へのコメント
今までの出会いは、毎回ミシュランのカトリックやらプレゼントくれくれ中国インフルエンサーやらいかにもな感じで身体の関係には進んでなかったから、一歩前進? 笑
香澄はリッチな元カレと復縁でもしたんじゃないのかな。国際遠距離はCAでもなかなか難しい。