「莉乃さんの思う商社の人ってどんなイメージですか?」
「そうだな、体育会系で、清潔感があって、ある程度見た目も気にしていて、でも根は真面目で…」
莉乃は遥斗の全身に視線を動かしながら言葉を並べた後、最後に目元で視線を止めた。
「でもプライドが高くて自分が正しいと思っていて、どこか女性を下に見ている、そんな感じ?」
試すように莉乃は美しく口の端をあげる。
― なんだ、この人…。
初対面の人に向かって挑発的だな、と遥斗はイラッとした。
「商社の人が全員そんなことはないと思いますよ。今や会社に女性管理職も沢山いますし。俺は自立した女性は素敵だと思いますよ」
ムキになる遥斗に、莉乃は余裕の笑みを見せる。
「そうかな?よく日本から来たビジネスマンに言われるの。『君は学生?語学留学で来たの?』って。社会人っていうと今度は『ああ、研修で来たの?』って。それでコロンビア大学出身で、現地の大手コンサルで働いてますって言うと、興味を失ったようにどこかに行くのよ」
遥斗も今ちょうど気まずさから逃げたくなったところだ。
「ごめんなさい、軽視したつもりはなくて。気に障ったなら謝るよ、ごめんなさい」
誠心誠意謝ると、莉乃はまたふっと笑う。
「でも、謝ってくれたのは遥斗くんが初めて。素直に謝れる人は好き」
莉乃はこれまでのよそ行きの笑顔とは違い、自然な微笑みをこぼした。
そこから二人で仕事のことやニューヨークのおすすめのスポットの話などで盛り上がる。
話してみると気さくで話しやすく、頭の回転も速くて楽しかった。
ただ遥斗は、初対面が最悪だったことと、これまでの失敗から消極的になっていて、その時は連絡先を聞かずに別れた。
数日後。ある人から連絡が来た。
「久しぶり。最近集まりに顔出してないけど、まさか私を避けてるんじゃないわよね?それより莉乃ちゃんって子、覚えてる?先週遥斗と会って連絡先を教えて欲しいって言ってるんだけど、教えてもいい?」
送信者はギャル姐。文面からでも彼女の圧が伝わってくる。
「はい、大丈夫です。すみません、最近忙しくて。また今度参加します」
「まあいいわ。それより、うまくいったら報告してね」
莉乃とギャル姐が知り合いだったことも、彼女が連絡先を知りたいと思っていたことにも驚いた。
その夜、莉乃からメッセージが。
「莉乃です。今週末空いてる?メトロポリタン美術館で私が好きな画家の特別展示があるんだけど行かない?」
― 莉乃に格好をつけて「絵画が好きだ」と話したから、それで誘ってくれただけだろう。
遥斗は期待を裏切られないよう自分に予防線を張る。
けれど「土曜日なら」と返したあと、気づけば鼻歌まじりでベッドに向かっていた。








この記事へのコメント
花束もらって椅子引いてもらったなら素直に“ありがとう” でいいのに。 中途半端にデーティング文化取り入れてたり、日本人なのに超面倒臭い😂