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TOUGH COOKIES Vol.39

「好きだからこそ別れる…」そう決断した女。しかし彼に再会したとき、気持ちが揺らぎ…

SUMI

ミチの視線が突然自分に向けられ驚いたともみに、少しだけ表情を緩めてミチは続けた。

「仲間を信用できるようになったことなんだ。だから、守りたいものがメグ、お前だけじゃなくなったんだよ」

メグの表情が歪み、ともみの胸が詰まる。ああ。と思った。やはりメグは自分から手放し、離れて過ごしてもなお、自分がミチの一番であり、オンリーワンであり続けることを願い続けてきたのだ。きっと自分でも気づかぬままに。

「自分は愛され続けて当然な存在だと信じられるのはメグ、お前の最大の長所だ。オレはそんなお前が愛おしいよ。今でもそれは変わらない。けどな」

― ミチさん、それ以上は言わないで。

ミチの言葉、その流れを自分が作ったにも等しいのに、ともみは思わず願ってしまった。おそらくメグは、ミチの存在を支えに世界で闘ってきた。いざとなれば、自分の全てを許して受け入れてくれる、待っていてくれる人がいる。そう思えたからこそだからこそ大胆に仕事ができてきたのかもしれない。でもそれが今、崩れようとしている。

「愛おしさの形も変わるんだなってことを…皮肉にも、今回お前が戻ってきたことで思い知ってしまった。お前が弱っているならどんなことをしてでも助けたい。けど、それはもう…昔のような、どうしてもオレの手で、オレの力で幸せにしてやりたいという感覚とは違う」

ともみと同じく、流石のルビーも言葉が出ないようで、店中に染みわたっていくように沈黙が広がり、冷蔵庫のモーター音が耳障りな程に響く時間がしばらく続いた。そして。

「……そっか。ミチにはもう、私はいらない?」

ほほ笑んだ、メグのその、無理やりの笑顔が哀しくて、ともみの胸が詰まった。

「お前のことがいらなくなることなんて、絶対にない。この先も、ずっと」

躊躇なく、真っすぐにメグを見つめたミチの瞳も、その声も、とてつもなく優しくて。自分に向けられているものではないのに、ともみは思わず涙がこみ上げそうになり、慌てて唇を噛む。

「…ミチ、そういうのずるいよ。切り捨てるんだったら、きっぱり切り捨てて…」

その先の言葉をメグは飲み込んだ。そして自虐的な笑みになる。

「そっか、こんな気持ちになるんだね」

それが何を指すのか、聞かずともわかった。大好きだからこそ別れたい、と言った時のこと。ミチが、そういうつもりじゃなかったけどな、と、穏やかに続けた。

「メグがどこにいても、この先もずっとオレはお前を愛してる。でもその愛の形が、昔とはもう違う。うまく言えないけど――例えるなら家族愛だと思う。…家族の愛なんて知らないオレが言うのもなんだけど」

メグの喉が、乾いたかのように鳴り、作られた笑顔が歪んだ。

「これからもずっと、お前はお前らしく生きて欲しい。でも、オレはもうお前を待たない。だから…」
「光江さんから、リリアの情報をもらえ、ってことだよね」

今度はミチが黙った。緊迫のやりとりに自分が呼吸を止めていたことを、ともみは息苦しくなって気づく。ともみとルビーは、先ほど光江がメグに、リリアの情報を交渉材料にしてミチから離れるように言ったことを話していない。けれどミチの表情を見ると、光江の行動について想像がついているのだろうとわかる。

「ショックを受けてる自分にショックだな。あ~あ」

メグがわざとらしくおどけて続けた。

「さっきともみちゃんに色々言われてた時は、そんなことない!ってムカついたりもしてたけど、今、こんなにショックを受けてるってことは、全部図星だったってことだよね。自分がミチにとってずっと1番なはずってうぬぼれてたってことだよね。完全に失恋した気分だもん」

まるで快晴の空のような大きな笑顔を作った、その明るさが余計に悲しくて、ともみが言葉をつなげずにいると、ただな、とミチが言った。

「ボスの…光江さんのことだから、たぶん――オレがお前に搾取され続けてるとでも言ったんだろうが、オレはお前に何かを奪われたなんて一度も思ったことはない。オレの方こそお前に救われてきたし、満たされてきたんだ。

本当に感謝しかないし、誰がどう言おうと…お前の男になれたことも、お前と過ごした時間も、心から――幸せだったと言える。お前と出会えなきゃ、今のオレはいないんだから」

ありがとう、とミチが頭を下げると、メグのその笑ったままの大きな瞳から涙が溢れた。え、ウソ、イヤだ、と慌てたメグが、ぬぐっても、ぬぐっても、止まることなくこぼれ続けた。

この記事へのコメント

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No Name
これは失恋ではないですね。 俺の事は頭からなくして思いっきり気兼ねなくやって来い!と言うエールであり思いやりの気持ちでしょうね。
2025/11/18 06:2514
No Name
それで良いと思う♡
ミチは待たないとは言ったけど、ほかの恋愛するつもりは全くないだろうね。“本当に好き同士” だから最後は絶対一緒になる。
2025/11/18 05:4013
No Name
メグ苦手だったけど、もらい泣きしそうに😭彼女は彼女なりに張り詰めて精一杯だったんだなと伝わりました
2025/11/18 07:258
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TOUGH COOKIES

SUMI

港区・西麻布で密かにウワサになっているBARがある。
その名も“TOUGH COOKIES(タフクッキーズ)”。

女性客しか入れず、看板もない、アクセス方法も明かされていないナゾ多き店だが

その店にたどり着くことができた女性は、“人生を変えることができる”のだという。

心が壊れてしまいそうな夜。
踏み出す勇気が欲しい夜。

そんな夜には、ぜひ
BAR TOUGH COOKIESへ。

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