A2:人の前で彼女のことを下げ過ぎて、逆にダサい。
みんなで買い出しに行った時までは、よかった。しかし問題は、その後からだった。
コテージへ戻り、調理を開始しようとした時、男性陣は手伝う気なんてまったくないようでBBQスペースで飲み始めた。
別に、それはいい。
しかし残されたこちらの状況を言うと、碧くんの妻・里穂ちゃんがとても張り切っており、私が出る幕がほぼなかった。
ここも難しいところで、こういう男女混合旅行の料理シーンは、女性同士の牽制が生まれる時がある。今回は、まさにそういうパターンだった。
優太くんの彼女、ゆなちゃんも「私、料理得意なんで」と言って、二人が包丁を握って離さない。
― そういうことなら、任せた方がいいかな。
ここで「私もやります!」とか言って牽制し合っている中に入るのは大人げがなさすぎるし、絶対に違う。
だから私は野菜を洗ったり、包丁を洗ったり。サブ的な感じでできることをしていた。
しかし、その作業も尽きてくる。結局やることがなくなり、私は一瞬圭太のほうへ行くことにした。
「奈緒、どうしたの?」
「いや、優太くんの彼女と里穂さんで楽しそうにしているから、なんか居場所がなくて」
男性陣がビールを飲んでいたので、私も飲もうかなと思い、とりあえずアルコールを物色してみる。すると圭太が、急に私の肘を突いてきた。
「そうなの?でもさ、二人が動いているなら奈緒も手伝いなよ」
「『何か手伝いますか?』って言ってはいるんだけど、特にないらしくて…」
「いや、それは自分でやることを探しなよ」
圭太の言い分もわかる。二人の奥さんや彼女が働いているのに、自分の彼女はビールに手を伸ばそうとしている。
構図的にみて、おかしいだろう。
しかし私は女性陣のキッチンの奪い合いを尊重し、むしろ譲った感じだ。
― でもこんなこと言っても、きっとわからないんだろうな。
そう思っていると、碧くんが笑顔で手招きをしてくれた。
「まぁ、二人に任せておいたらいいんじゃないですか?奈緒さんも一緒に飲みましょうよ」
「いい人だなぁ」と思った矢先。圭太が、急に大きな声を出した。
「いやいや、奈緒は何もできないんだから、せめて邪魔だけはするなって。あっちへ行って、二人の手伝いするとか、何かしてきなよ」
― 何その言い方…。
もう少し、違う言い方はできないのだろうか。結局キッチンにもBBQスペースにも居場所がなくなってしまい、手持ち無沙汰になった私は一人でお皿を拭いたり、コップを置いたり…。とりあえずできることをやった。
そして二人が綺麗に盛り付けてくれたお肉やお野菜で、BBQが始まった。この時点で、私はもう疲れていたのかもしれない。
― こういう時、もっと上手く立ち回れたらいいのにな…。
そんな自己嫌悪にも襲われつつ、だんだんと帰りたくなってきたのは言うまでもない。
「ウマっ。お二人、料理上手ですね」
圭太が調子良い感じで、里穂ちゃんとゆなちゃんに話しかけている。私はそれを、最初はにこやかに見ていた。
しかし次の発言に、唖然としてしまった。
「いやいや。奈緒さんだって、普段料理するでしょ?」
「するけど…いや、里穂さんさすがですよ。奈緒は料理はできるけど、掃除とかがダメダメで」
「そうなの?」
「奈緒はああ見えて、抜けてるんですよ」
― 人前で、私のこと、下げて楽しい?
本人に悪気はないのかもしれない。でも圭太の態度は、不用意に人を傷つける。彼氏なら、私のことを褒めるくらいでいいのに、友達の前で、私の扱いが酷すぎる。
しかしここでケンカするなんて、もってのほか。
だから私は、一瞬泣きそうになるのをグッと抑えて、笑顔でピエロを演じることにした。
「そうなんですよ〜。なので今日、全部やっていただき助かりました。ありがとうございます」
こうしてなんとか一夜をやり過ごし、長かった一泊二日が終わった。
そしてこの旅で、私は圭太の本当の姿が見えた気がする。人前でカッコつけたがりで、彼女のことを下げて言うのがオシャレか何かだと思っている。
でも私は、そんな不当な扱いを受けるのはごめんだ。
相手が誰であれ、人を見下したりするのは良くないと親から習わなかったのだろうか。
些細なことかもしれない。でも大人になって、こういう根本的な考えはそう簡単には変わらないと思う。
― この人と将来結婚して、もし子どもが生まれたら…どうなるんだろう。
そんな不安も芽生えてきて、私は一旦、この関係を見直すことにした。
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彼氏と別れようと思う瞬間とは
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