TOUGH COOKIESで全てを吐き出し、ルビーに涙と叫びをぶつけられた美景は、ともみの提案に納得し、全てをさらけ出す覚悟を決めた。
「ともみさん、今日は本当にありがとうございました」
深々と頭を下げた美景は——まずは誰より大切な恋人の一真に、自分の過去を告白する。そのあと会社のメンバーにも、愛人になる見返りに受け取った資金を会社の運営に回したことがあること、それを理由に今脅されていることを伝えるという。
「一真の心を守るべき、っていうともみさんの言葉が私の目を覚ましてくれた気がします。それに一真だけじゃなくて…私にはこれ以上裏切ってはいけない人達がいる。今まで私を信じてついてきてくれた会社のメンバーにも全てを伝えて謝って、できる限りの保証をしようと思っています」
自分が代表を辞任することを前提で、会社を存続するのか廃業するのかを社員たちと話し合い、その結果を後日インスタライブで、美景自身や商品のファンでいてくれた人たちに、事情を含めて隠さず報告する。そう決めたという美景に、ともみは頷きながらも、厳しい顔になる。
「全てを手放して謝罪したからといって、許してもらえるとは思わない方がいいです。世間は不倫とか愛人だとかには特に厳しいですから。美景さんの自業自得とはいえ、誹謗中傷は続くでしょう。一生終わらないかもしれない」
覚悟していますと答えた美景の目には強さが戻っていて、ともみは少しホッとしながら続けた。
― 綺麗ごとはキライ。…でも。
「美景さんはこれから、孤独でボロボロになって…ゼロどころかマイナスからの再出発になると思います。でもそれでも…やり直すことから逃げないで欲しいです。
辛くてどうしようもなくなって、人生を投げ出したくなってしまったら——またこの店に来てください。ルビーも…私も、待ってますから」
涙をこらえるように歯を食いしばり頷いた美景に、ルビーが抱きつきまた泣き出した。そのあと、「片付けは私1人でやるから、ルビーは美景さんに付き合ってあげて」と、2人を追い出すように送り出したのは…今夜は自分らしくないことを言い過ぎてしまったという、ともみの照れ隠しでもあった。
そして大輝にLINEを送ったのだ。
◆
「夜中に見る桜って初めてかも」
そう言って立ち止まると、大輝は桜の枝に手を伸ばした。その長い腕でも、花びらにもう少しのところで手が届かず、「残念!」と舌を出したその表情に、ともみはまたうっかりときめいてしまい、バカ!!と心で自分を戒める。
「綺麗だね…って、そんな単純な表現しか出きない自分が恥ずかしいけど」
と、大輝は照れて笑ったけれど、脚本家として活躍しながらも、言葉を無駄に飾らないところは大輝の美点の1つだとともみは以前から思っている。
それに、『本当に感動した時、人は表現を失う。言葉を飾り立てる余裕があるうちはその感動は薄く、“表現するために”作られたものだということだ』と、芸能界にいたとき、ある大物俳優に言われたことがある。
それは芝居の指導中に受けた指摘だったけれど、ともみは今も何かとその言葉を思い出している。
天現寺の交差点から、渋谷橋に向かって1kmほど続く桜並木を2人で歩きながら、桜を愛でるふりをして、ともみはそうっと、大輝を盗み見る。
― 下から見ても美しい男…だなんてずるいよ、本当に。
この記事へのコメント
えーーーーーーー♡ 嬉しい!嬉し過ぎるね。早くその先を読みたい。
チラッと出て来た美景は代表を辞任する前提だと世間は逃げ出すように感じるかも....インスタライブで報告もどうなんだ? エンリケの不...続きを見る祥事が浮かんでしまった。 あと、メグミチだよね。どんな展開になるんだろう....