3年前。24歳の私の身に起きたのは、世間一般で言えばごくありふれた出来事だった。
当時付き合っていた彼氏に、浮気されただけ。
そしてその浮気相手は、彼が言うところの“ただの女友達”だった。
「あいつのことは、女として見たことないから」
「あいつも普通に彼氏いるし、マジで何もないって」
私がどれだけ嫉妬しても、何度もそんなふうになだめすかされて──結局やることやっていたことが発覚した時には、思わず笑ってしまったっけ。
バレた時に彼に言われたことは、たしかこんな感じ。
「ごめん…。彼氏と喧嘩したっていう悩み相談に乗ってて…。彼氏より俺を選んでおけばよかったって泣かれたら、ほっとけなくてつい…」
すごく傷ついた。彼のことが大好きだったから、たくさん泣いた。
だけど、胸が張り裂けそうな悲しみを表す言葉よりも、真っ先に私の頭に浮かんできたのは…。
― ほらね、やっぱり。
そんな、自分でも意外なほど冷め切った言葉だったのだ。
男女の間に、友情なんて成立するわけがない───それが、私の持論だ。
もちろん、幼稚園から雙葉で育ち、女性だらけの化粧品会社に就職したという私の環境が、世間的には特殊なほうだという自覚はしている。
だけど、友情から発展する恋愛なんてごまんとある。学生時代なら、むしろ友達が恋人になるルートこそが恋愛の王道だ。
「いい大人なんだから、学生とは違う。大人同士節度を保って理性的な付き合いができる」
そんな意見を耳にすることもあるけれど、とても説得力があるようには思えない。
だって、理性を手に入れた大人は、他にもいろんなものを手に入れているから。
背徳感。
上手な嘘。
割り切った関係。
酔いに身を任せること。
自分自身の本当の気持ちに蓋をすること──。
実際に、私の目の前で男の子たちは、いつもそんな風だった。
「ずっと好きだった。もう友達のふりは続けられない」
そう言われた経験は、1度や2度じゃない。塾の男の子も、上智の同級生も、サークルの先輩も、ただの友達ではいてくれなかった。
少し悩み相談でもしようものなら、彼氏と別れたと報告しようものなら、すぐに安全なふりをやめて目の色を変えてしまう。
そんな現象がありふれているこの世の中で、どうして男女の友情は成立する…なんて言えるんだろう。
だから今夜、9年付き合っているという莉乃さんの彼氏さん──秀治さんが同席していることは、私にとっては何の意味もなかった。
彼氏がいようが彼女がいようが、心が動く時は動いてしまう。あやまちが起きるときには起きてしまう。
それよりも正輝くんが莉乃さんと会うのをやめられない以上、本当に知りたいのは、莉乃さん自身がどういう人なのかだ。
はっきり言って、莉乃さんはすごく素敵な女性だと思う。自分の気持ちに正直に、誠実に向き合っている人のように見える。
莉乃さんが正輝くんのことを親友としか思っていないというのは、きっと、多分、本当のことなのだろう。
だけど。
さっぱりとした莉乃さんの態度を前に、ほんの少しずつ冷静さを取り戻し始めた私の心は──この後、またすぐに乱されることになるのだった。
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