『明日、ってか今夜か。萌香も連れて行っていいかな?もしよかったら、秀治さんにも声かけてみてよ』
正輝からそんなメッセージが入っているのを確認した私は、リビングに差し込む朝の光の中で、ルーティンになっている朝ヨガをしながら思った。
― もしかして、久しぶりに“あの”パターン?
世の中には、ごくたまに存在するのだ。
正輝と私の間には、本当に友情以外はなにもない…ということを、信じられない人が。
正輝の今までの彼女の中では、たしか2人だっただろうか。
大学1年生の時に、すこし付き合っていた子。この子からは「正輝にベタベタしないでくれる?」と面と向かって言われた。
多分、正輝はそのことを知らないし、その子とは3ヶ月記念日を忘れていたかなにかが原因ですぐ別れていたと思う。
もう1人は、社会人になったばかりの頃に半年くらい付き合っていた子。
正輝は「仕事が忙しすぎて別れた」と言っていたし、実際に別れた理由はそうなのだろうけれど…。
1度デート中のふたりにバッタリ遭遇したときに、「たまに飲みに行ってる親友って、この子なの?」と彼女がすごく嫌そうな顔をしていたことを覚えている。
こういうことは、別に正輝の彼女に限った話じゃない。
私自身、正輝とは関係ない友人や同僚にも、何度か言われたことがあるのだ。
「男女の間に友情なんて、成立しないでしょ」…と。
小学校から過ごした成蹊や、留学していたアメリカの友人たち。慶應大学で出会った内部生の子たちにとっては、男女の友情なんてありふれたもの。
けれど、自分たちに異性の友達がいない人からしてみると、この関係は異様に見えることがあるらしい。
「少なくとも、男側はちょっとは下心があると思うよ」
「酔った勢いとかで、キスくらいはしたことあるでしょ」
「でも、たとえば同じベッドで寝たりしたら…ねえ?」
そんな下卑た、絶対に起こるはずもない勘繰りをされたことは、1度や2度じゃない。
常識というものは人によって様々なのだから、そんな風に思う人がいるのは仕方のないことだと頭では理解できる。
けれど…男女間の関係を“性”という枠組みでしか考えられないというのは、私にとっては視野の狭い、ナンセンスな考えだとしか思えなかった。
3年前くらいに正輝がわりと長く付き合っていた彼女とは、何度か一緒に遊んだことがある。ベタ惚れだった正輝は、どんな遊びの場にも彼女を連れてきていたから。
親友として改まって紹介を受けたわけではないけれど、何回か、私の彼氏・秀治も呼んでダブルデートもした。
それが功を奏したのか、彼女がもともと男女の友情に疑問を抱かない先進的なタイプだったのかは知る由もないけれど、彼女からは疑いの目を向けられたことはなかったように思う。
― もしも萌香ちゃんが、私の存在をよく思っていないタイプだとしたら…。
親友の大好きな人なのだから、私と正輝には何もないということを理解してもらって、いい関係になりたい。
そう思った私はもちろん、正輝のLINEには二つ返事でOKをした。
もちろん、萌香ちゃんがヤキモチを焼いているかどうかなんて、私にはわからない。
いい意味でも悪い意味でも鈍感な正輝が、そこまで色々考えているかどうかもわからない。多分、正輝はなにも考えていない。
でもだからこそ、もし萌香ちゃんの心の中に少しでも疑問があるのなら、その不安な気持ちは私の方で「全く心配いらないよ」と、払拭してあげたかった。
その結果──。
今、私たちが囲んでいるテーブルには、4つのグラスが乗っていた。
正輝と、私と、萌香ちゃんと、それから秀治。
たまたま仕事が暇なタイミングだった秀治は、声をかけたのが今日の今日だったのにもかかわらず、珍しく会に参加することができたのだ。
この記事へのコメント
そうじゃないんだよ、少し遠慮しろって事なのに。
“世の中には男女の友情を疑うことしかできない、視野の狭い人間がいる” 視野が狭いのはどっちよ? 自分と違う考え方を理解出来ない…自分の意見がいつも正しいと思ってる感ダダ漏れ。秀治さんも呆れてたし。