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TOUGH COOKIES Vol.9

「彼女になりたい」曖昧な関係に終止符をうつべく告白した28歳女。男の返事は意外なもので…

笑っていたはずなのに。いつのまにか泣いていた。何、何、止まってよと、ともみは慌てた。けれど一度溢れた涙は止まらず、涙に引きずられるように、押さえつけていたはずの悲しみがこみ上げてくる。


― 泣くな。ダメ。これ以上は、本当にイヤだ。

カウチソファーの背にもたれ慌てて上を向く。大丈夫、上を向いて、こすらずにいれば、目が腫れることを最小限に防げるはずだ。

芝居の稽古で教わった知識がまたも活きるなんて。そんなことを思いながら、ともみはそっとブランケットをかぶった。

前日の深夜・営業の終了したBAR・Sneetで


店長のミチが、営業終了後ゴミを捨てに出ると、男の怒鳴り声が聞こえた。そちらを見ると、泥酔した男性が女性の腕をつかんでいて、女性が嫌がっているように見えたので、ミチが仲裁に入った。

ミチは190cmを超える長身マッチョ、さらに目の下の傷があり、格闘家と見まがうほどいかつい。そんなミチに恐れをなしたのか、男性は逃げるように去り、置き去りにされた女性が座りこんで泣き出してしまった。

ミチは、タクシーを捕まえましょうかと聞いたけれど、女性はただ泣くばかり。ならば一旦落ち着くまでと、女性をBAR・Sneetにつれてきたのだが。

「…どうぞ」
「…すみません」

とりあえず水を出し、しばらくすると落ち着いてきたようで、女性は迷惑をおかけしましたとミチに詫びた。

「迷惑とかじゃないですけど…その、大丈夫ですか?」

ミチは口下手だ。しかも泣いている女性がすこぶる苦手で、涙を拭くようにとナプキンを手渡したものの、それで女性はなおさら泣いてしまった。

どうするべきか思案している間に、女性が小さな声でもう一度すみません、と言った。

「この辺りにお住まいですか?」

聞いてからミチはしまったと思った。もし遠いならタクシーを手配しようという心配による質問だったが、女性に住まいを聞けば怖がられてしまうかもしれない。

だが女性は気にした様子はなく、住まいは白金です、と言った後、名刺を取り出し、ミチに差し出した。

水原桃子。会社の住所は表参道で、アシスタントデザイナーと書いてあった。

「オレは、ミチです。一応この店の店長やってます。さっきの男、彼氏さんにしては、だいぶヤバかったですけど、大丈夫ですか?」

ミチの言葉に、桃子がまた泣き出してしまった。

「も、もう、彼氏じゃないです…!し、信じてたのに…あの人に騙されてたんです。でも何もかもが私のせいにされて、脅されて…っつ、もうどうしたらいいのか」

オーマイゴット。きっとこの話はオレでは力不足だ。そう思ったミチは、堰を切ったように止まらなくなった桃子の涙と話が落ち着くのを待って、TOUGH COOKIESのショップカードを差し出した。


▶前回:「オレたちの関係に名前をつけると…」曖昧な関係の彼に本音を言われた女がショックを受けたワケ

▶1話目はこちら:「割り切った関係でいい」そう思っていたが、別れ際に寂しくなる27歳女の憂鬱

▶NEXT:4月24日 木曜更新予定

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この記事へのコメント

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No Name
本当は二人が付き合う展開を希望していたけれど仕方ないよねぇ。いつの間にか涙は溢れて止まらないのはすごく好きだった証拠だね。以前自分がフラれた日の事を思い出してしまったわ。
2025/04/17 06:3631Comment Icon2
No Name
そうなのね、超残念。割り切った関係から彼女になるのはやっぱり難しいのか。にしてもアオハル&この連載は謎にアンチが多いけど先週辺りからコメント欄の治安が悪くなっていてガッカリ。
2025/04/17 07:1225Comment Icon1
No Name
断られてもめげずに誘い続けたから大輝もともみに心を開いて気軽に遊べる友達になれたんじゃないかな? そう直ぐには思い出に変えられないとは思うけど、落ち着いたらまた普通に友達付き合いは出来ると思うから...。 しかしあの京子さんだったか…人妻の、生きてるのかい?もう離れないって約束したはずだったのにって。
2025/04/17 05:3822Comment Icon10
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TOUGH COOKIES

港区・西麻布で密かにウワサになっているBARがある。
その名も“TOUGH COOKIES(タフクッキーズ)”

女性客しか入れず、看板もない、アクセス方法も明かされていないナゾ多き店だが

その店にたどり着くことができた女性は、“人生を変えることができる”のだという。

心が壊れてしまいそうな夜。
踏み出す勇気が欲しい夜。

そんな夜には、ぜひ
BAR TOUGH COOKIESへ。

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