025b70781602daf6ef3c0197920983
運命なんて、今さら Vol.16

最近会う頻度が低い彼氏。「仕事が忙しい」と返された24歳女は、男を問い詰めたら…

三郎は、十数秒でペンを置く。

ミチが、三郎のメッセージカードを覗き込んだ。

『小学生時代から寿人と出会えた俺は、ほんとにラッキーだ。これからも一生大切にする』

「なんかプロポーズみたい」とミチが笑う。

― …あんな優しいヤツ、めったにいないんだ。

三郎が寿人と仲良くなったのは、小学3年生の秋のことだ。

当時から体が大きくやんちゃだった三郎は、同じくやんちゃな上級生によく目をつけられていた。

そんなある日の帰り道、三郎は突然、一人の上級生から大きな石を投げられた。

「消えろ!」という、きつい言葉とともに。

「痛え…」

石が当たった手首のあたりをさすってかがんだとき、小柄な男子が駆け寄ってきてくれた。

「ねえ、大丈夫?」

「ありがと。あ、上条くん…だよね?2組の」

無言でうなずいた寿人は、走り去っていく上級生の後ろ姿を見ながら言った。

「痛かったでしょ。ひどいことする人だね」

「ムカつくよな」

「…たぶんあの人、なんかつらいことがあるんだろうな」

当時の三郎は、いじめっ子の「つらさ」なんて考えたこともなかったから驚いた。

この子は自分にはない優しさを持っている、と思った。


― 寿人は、覚えているだろうか。

三郎はこれまでの日々を思い返す。

以降寿人によく声をかけるようになり、ほとんどの放課後を一緒に過ごすようになった。別々の中高一貫校に進んだが、今まで、会わない月はないほどの頻度で会っている。

「なあミチ。…俺の優しい部分はな、全部あいつから盗んだようなもんなんだ。見様見真似で」

「じゃあさ、三郎」

「ん?」

「この子にも、寿人くんからもらったその優しさを、たくさん教えてあげてね」

左手でお腹に手を当てながら、ミチはペンを動かす。

完成したミチのメッセージカードを見ると、『優しい三郎をつくってくれて、ありがとう』と書かれていた。

― 泣かせるなよ。


「あ、三郎。あれ華ちゃんじゃない?」

ミチが手を伸ばした先に、赤い振袖姿の女性がいる。イメージより随分大人っぽくなっているが間違いない、華だ。

「おーい、華!」

三郎が大きな声で手を振ると、華は振り返った。

「あ!サブちゃんだ!ミチさんも!」

華は、振袖なのにバタバタと走ってくる。

「お久しぶりです、今日はありがとうございます」

「大きくなったな」

「もう社会人2年目ですもん」

その笑顔に、なんだか込み上げるものがあった。

あんなに小さかった華は綺麗な女性になり、その肩越しに見えるフォトパネルでは、タキシード姿の寿人が微笑んでいる。

なんだか鼻の奥がツーンとしてきて、三郎は焦った。

― や、やべ。

友人や同僚の結婚式には、もう30回くらい出ている。でも、式が始まる前に泣きそうになるのは初めてだ。

三郎は、感情の高ぶりをごまかすように堂々と背筋を伸ばし、華に言った。

「華、ご両親はどこにいる?挨拶させてもらおうかな」


▶前回:34歳で彼女と初めての海外旅行。男が旅行中ずっとソワソワしていたワケ

▶1話目はこちら:「自然に会話が弾むのがいい」冬のキャンプ場で意外な出会いが…

あなたの感想をぜひコメント投稿してみてください!

この記事へのコメント

Pencil solidコメントする
No Name
何なのこれは? 必要あった?
番外編にもなってないような....
これなら全く別の一話完結で他のライターさんが書いた話を読みたかった。
2025/04/16 05:1736Comment Icon1
No Name
キル フェ ボン のフルーツタルトが食べたくなった♡ 感想はそれだけです!
2025/04/16 05:2215Comment Icon2
No Name


『華なんて、今さら』 サブ🥶
2025/04/16 05:1911Comment Icon1
もっと見る ( 20 件 )

運命なんて、今さら

気づけば32歳。

仕事もそれなりに順調で、周りから見れば「いい年頃」の大人。

でも、その「順調」の裏にある虚しさがある。

かつての自分は、もっとまっすぐだった。好きな人には全力で向き合い、泣いたり笑ったりするのが当たり前だった。

けれど、いつのまにか傷つくのが怖くなり、「無難」で「賢い」選択をするようになった。

「恋愛なんて、もういいよ。どうせうまくいかないし、面倒だし」

そう心の中で繰り返しながら、恋人いない歴は7年に伸びた。

ただ、そんなある日、彼女と出会った。

この連載の記事一覧