「幸せそうな彼女がなぜ？」SNSで悪質コメントの犯人を突き止めたら、意外な人で…

「ともみさん、どゆこと？さっきの話は、アタシはみず穂ちゃんの味方だよ、ってつもりで話したんだけど。それでなんでみず穂ちゃんの耳が痛くなるの？」

もはや1杯ではすぐに飲み終わってしまうと判断したのか、2杯のビールを手にみず穂の隣の席に戻ったルビーがキョトンと尋ねながら、ともみとみず穂を交互に見た。

「…私が裏アカを持っていたからですよね」

気まずそうなみず穂にともみが頷く。

「流出した裏アカが誰かに作られたフェイクではなく本物で、みず穂さん自身が書かれていたんですよね」

「はい」

どゆこと？どゆこと？と置いてきぼりのルビーを、無言の微笑みで制してともみは続けた。

「その裏アカに共演者の悪口を書きこんでいたってことですよね？とすれば、さっきルビーが言った“匿名となると平気で人の悪口を書き込み傷つける、そんな汚いやつら”ということを、東条さんもやってたことになっちゃうなと」

ルビーの「なるほど」と、みず穂の「でも」が重なる。

「私のアカウントはフォロワーを限定した鍵アカなので…」

言い訳だと自分でもわかっているせいなのか、みず穂の語尾が小さくしぼんだ。

「そもそもなんで裏アカなんて作ろうと思ったんですか？」

ともみにとってそれは素朴な疑問だった。芸能人である限りリスクしかないものを作るなんて、自分がアイドルだった頃は思いつきもしなかったからだ。

「まだ…今ほど名前が売れる前、今の事務所に入る前に作ったアカウントです。自分が出た映画やドラマのエゴサをするために使いたかったので、自分でつぶやくことはなく、ずっと見る専門でした」

「なのになんで、人の悪口なんて書くようになっちゃったのよ～」

口を尖らせ眉を寄せたルビーの嘆きに、ともみも心の中で100％同意する。

「朝ドラのオーディションに受かって初めて主役を任せてもらって。前の事務所から今の事務所に移ったころだったと思います。

芝居が思い切りできるのは楽しかったんですが、とにかくいきなり何倍にも忙しくなったから。最初は寝たいけど眠る時間がないとかそういうたわいもない愚痴を書くようになって。

私は器用ではないのでストイックにならないと役に入り込めなくて、同世代の俳優たちと現場で仲良くすることもありません。

そもそも皆ライバルだと思っていますし、誰よりも芝居が上手くなりたい。だからたまにある休みの日もボイトレや演技レッスン、他の人の舞台を見に行く時間にあてています」

「それってもう趣味仕事ってやつじゃん。疲れないの？みず穂ちゃんって友達いらないタイプ？寂しくない？」

いつもならば、遠慮など知らぬと突っ込んでいくルビーにブレーキをかけるのがともみの役目だが、不思議と今日は止める気にならなかった。

「疲れてたとか寂しかったとか、そういうのは分からないんですけど…いつからかやたらと同業者に腹が立つようになっちゃって。

現場に恋人を作って恋愛に浮かれている子とか、中途半端な芝居をしているから怒られているのに、努力をせずに監督が怖いと泣く子とか。

今はすぐパワハラって言われて問題になっちゃうから、監督もしつこくはできなくて。そのうちにプロデューサーになだめられたりして、本当は納得していないその子の芝居にOKを出してしまう。

なのに事務所の力で出演作は途切れないし、そのうちに、そんな子たちと同レベルに扱われていることにムカつくようになってしまって。

そんな同業者に対する怒りも、裏アカにポストするようになってしまいました。

私には親しい友達がいないので…その鍵アカの中で吐き出してストレスを発散する。どこにも漏れないという安心感の中で愚痴を聞いてもらう…そんな感じでした…それで」

「確か…目薬がなきゃ泣けないウソ泣きド下手女優…でしたっけ？それが流出したと」

ネット記事の記憶を手繰り寄せてそう聞いたともみに、みず穂が素直に頷くと、ルビーが、あのぅ質問なんですけど、と小さく右手を上げた。

「その鍵アカってさ、誰が見れてたわけ？」