「幸せそうな彼女がなぜ？」SNSで悪質コメントの犯人を突き止めたら、意外な人で…

港区・西麻布で密かにウワサになっているBARがある。
その名も“TOUGH COOKIES（タフクッキーズ）”。

女性客しか入れず、看板もない、アクセス方法も明かされていないナゾ多き店だが、その店にたどり着くことができた女性は、“人生を変えることができる”のだという。

タフクッキーとは、“噛めない程かたいクッキー”から、タフな女性という意味がある。

▶前回：「え、あの清楚系女子が？」21歳女のSNS裏アカが流出。しかし、真相は嫉妬する周囲の罠だった！？

Customer2：東条みず穂（21歳）【裏アカ発覚…炎上して活動休止中の有名女優】中編

「私は愚痴りたくて来たわけじゃないんです。本当は来る気もなかった。でも店長さんも、元アイドルだったって聞いて興味がわいて。少し調べさせてもらったんです。そしたら、AN（あん）さんだったんですね。

一瞬でもそこそこ売れたグループにいらっしゃった方だったなんて、驚きですから」

BAR TOUGH COOKIESの店長・ともみに、21歳とは思えぬ落ち着きでそう言い放ったのは、人気女優の東条みず穂だ。彼女はSNSの裏アカが流出したことによる大炎上で、ドラマや映画、CMを軒並み降板。目下無期限自粛中の身でもある。

『一瞬でもそこそこ売れた』という表現にたとえ悪意がこめられていたとしても、ともみには全く響かないし、傷つくこともない。

― 的確な表現だと、むしろ褒めたいくらいだよ。

ともみが芸能界から去って既に6年。最近では「もしかしてAN（アン）ちゃん？」とアイドルだった時の名前で声をかけられることはほとんどなくなっていた。

つまり自分はその程度だったということ、人の記憶に残り続けるような才能はなかったと、ともみは冷静な自己分析ができている。

「ANさん…店長さんも私と同じで、子役から始められてるんですよね」

「え、ともみさん子役上がりだったの？」

ともみが頷くよりも早く反応したのは、この店唯一の従業員ルビーだ。

「お2人も好きなお酒を飲んでください、私からということで」と、みず穂に勧められてルビーがいそいそと注ぎ始めたのは、日本酒の蔵元が作った生ビール。ほのかな甘さが特徴で、他にはないこの店のオリジナル商品なのだが。

お客様に好きな酒を飲んでいいと勧められた場合、一番安い生ビールをうすはりの小さなグラスで頂く、というのがともみがきめたこの店のルールなのだ。

「はいともみさん、どぞ」

ルビーは注いだグラスを、まずはともみに手渡した。

ルビーという生物は一見破天荒でお調子者だが、ともみには忠実だ。

ただし、その忠誠心のあまり…なのかともみのことを「ラブネキ（大好きな姉貴の略）」と呼びたいと言い始めていて、それをともみは拒み続けている。

自分の分の生ビールを注いだ後、ルビーはちゃっかりとみず穂の隣に座りこんでから聞いた。

「で？なんで急に、ともみさんが子役だった頃の話？」

ルビーに対する警戒心の消えない怪訝な顔をしながらも、みず穂はその質問を拒否することはなかった。

「店長さんって6年前に芸能界をやめられたってことは、21歳だった時ですよね。丁度今の私と同じ歳だから…キャリアに終止符を打つってどんな気持ちになったのか聞いてみたくて。3歳から子役やられたんでしょう？それも私と全く同じですし」

「そこまで私のことを調べてもらえるなんて、最早光栄ですけど…」

ともみは、まさかと思いながら続ける。

「東条さんは…辞めるつもりなんですか？芸能界を」

みず穂は口元を歪めて、つもりもなにも、と皮肉げに笑った。

「私の意志とは関係なく、たぶんもうすぐ強制終了ですから」