恋のジレンマ Vol.4

机に置き手紙を発見した25歳女。封筒を開くと、1通の便箋と“固い物体”が出てきて…

須間からの手紙の内容は、日ごろのお礼や挨拶が主で、休みに関する具体的な理由は記されていなかった。

― ええ…どうして?私、何かしたかなぁ…。

突然のことに、萌絵は戸惑う。

自分の行動を顧みても、思い当たる節はない。

萌絵は、須間が働きやすいよう配慮してきたつもりだ。

弁当を作ってくれていることに強い恩を感じていたこともあって、快適に仕事ができるように、日ごろからあまり部屋を散らかさないようにしてきた。

目に余るところがあるときは、須間が来る前にあらかじめ軽く掃除をして迎えることもあった。

― まあ、それなら家事代行になんて頼まないで自分で掃除しろって話だけど…。

ときには、須間に差し入れを用意しておくこともあった。

今日も、仕事帰りに寄り道して買った「ÉCHIRÉ」のクッキーを、『よかったら召し上がってください』とメッセージを添えて置いておいたばかりだ。


突然距離を取られるかのような状況を、萌絵は受け入れきれない。

― 明日はいいとしても、来週からの板垣くんに渡すお弁当、どうしよう…。

須間に丸投げしていただけに、急にいなくなってしまうと、すぐには打つ手が見つからない。

― 私が作る?いやぁ、無理だなぁ…。

料理に取り組んだときの惨状が頭に浮かんだ。

少しずつでも練習を続けておけばよかったと後悔する。

恋の道のりは順調かと思いきや、突然大きな障壁が立ちはだかった。



翌週の水曜日。

昼休みに入り、萌絵はランチバッグを片手に、板垣を伴っていつもの公園に出た。

秋とはいえ、東京はまだまだ蒸し暑く、不快指数が高い。

周囲を高いビルで囲まれているため、淀んだ空気が逃げ場なく溜まっているようにも感じる。

屋根のあるベンチを選んで、萌絵と板垣は腰をおろした。

「はい。今日のお弁当」

毎週恒例となった弁当を、板垣に手渡す。

板垣は蓋を開けると、「おお、うまそう!」と顔を綻ばせた。

弁当箱にはいつも通り、彩りのいいおかずが並び、華やかな様相を見せる。

だが、これは須間が作ったものではなく、ましてや萌絵が作ったものでもない。

須間の代わりでやって来た家事代行スタッフが作ったものだ。


「では、いただきます。まずはこのタンドリーチキンを…」

板垣がおかずに箸を伸ばし、口に運んだ。

萌絵は横目に見ながら様子を窺う。

今までであれば、口に入れた途端に発するくらい勢いよく、「うまい!」の言葉が聞かれたが、それがない。

― あれ…。味の違いに気づいちゃったかな…。

「あ、そうそう。今回はちょっと時間なくて急いで作ったから。あんまり…だよね?」

萌絵が、もっともらしい言い訳で取り繕う。

「ううん。そんなことないよ。美味しいよ」

「本当に?」

「うん。このエリンギのバター焼きも、ほんのりレモンがきいてて爽やかだし」

板垣が目を細めてニコッと微笑む。

箸でつまんで口に運び、「うんうん」と頷きながら咀嚼を続ける。

― う~ん。やっぱりいつもよりリアクション薄いなぁ…。

過剰なまでの反応を知っているだけに、物足りなく感じる。

見栄えに差はなくても、微妙な味の加減の差が影響を及ぼしているに違いない。

― ああ、須間さん。早く戻って来て~!

萌絵が訴えかけるように空を見上げると、覆っている雲がさらに厚みを増していた。

この記事へのコメント

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No Name
随分とまぁ都合よく書かれたストーリーだなと。
2024/09/23 05:1320
No Name
普通に考えて、嘘をつかれて他人のお弁当を食べさせられてた事については、少なからず不快感を抱くと思う。板垣も萌絵に気があったとするなら、毎回弁当もらってるだけじゃなくてお礼の食事に誘うとかしてただろうに。 無理矢理作った変な話。
2024/09/23 05:1920
No Name
料理がうまい人や慣れている人は目分量で作っちゃうから、その人が作成した細かいレシピを参考にしたとしても、それほど味を寄せて作ることは出来ない。料理はそういう所が難しいなと思う。板垣のお母さんが家政婦の須間さんだったとのオチを期待したけど、違ったわ。
2024/09/23 07:2511
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