「変わったお味やね」京都に嫁いだ東京女を悩ませる、姑の遠回しな嫌味

「京都の人は“いけず”だなんて言われますが、夫から紹介された同志社時代の同級生や、お稽古サロンなんかで知り合う同年代の友人たちはみんな気さくで優しい。排他的な雰囲気もまったくなくて、気の合う友達もでき楽しくやっています。ただ…」

七瀬さんは一つ咳払いをすると、声を潜めて言葉を続けた。

「…問題は、義母です。まあ、それでもうちはマシな方なんです。実家は東山にあるんですが、私と誠は烏丸御池でマンション暮らしをさせてもらっているから。

東京で生活している人には想像もつかないと思うんですけど、京都って、令和のこの時代でも、両親と同居するのが当たり前みたいな文化なんです。老舗の和菓子屋だったり酒屋だったり呉服店だったり…そういうお家は、絶対に同居だと思いますよ。

うちは夫が言い張ってくれたこともあり、同居は免れた。それだけでも恵まれてるって思わなくちゃいけないんですけど…」

両親と同居…。

東京で自由気ままに暮らしている独身女性が聞いたら、身震いしてしまうのではないだろうか。

同居だけは絶対に無理。東京女たちの例に漏れず、七瀬さんもそれだけ絶対に嫌だった。

それゆえ、誠さんからプロポーズされた際、同居だけは勘弁して欲しいと条件をつけた。そして彼はその約束を守り、義両親を説得してくれたのだ。

「ただ…同居はしないですみましたが、とにかく頻繁に実家に呼びつけられるんです。なぜか週末は一緒に食事をするのが当たり前になっていて。

外食するのはまだいいんですが、お義母さんと一緒に夕食の支度をしなきゃいけない日もあって、それがまあ、地獄なんですよ…」

七瀬さんは、京都に引っ越して間もない頃、初めて実家で義母と料理をした時のことが忘れられないと言う。

「実家でも母の料理を手伝っていましたし、お料理教室にも好きで通ったりしていました。だから料理にはまあまあ自信があって…でも義母から頼まれたのはお味噌汁だけ。他は自分がやるからいいって言われちゃって」

物足りなく感じながらも、必要以上に出しゃばる訳にもいかない。

仕方なく、冷蔵庫にあったお豆腐、油揚げ、ワカメ、出汁パック、味噌を使っていつも通りのお味噌汁を作ったという。

「お味噌汁くらい、失敗のしようもないじゃないですか。なので私も自信満々に食卓に並べました。実際、お義父さんも誠も、美味しいって言ってくれたんです。でもお義母さんがお椀に口をつけた瞬間、なんて言ったと思います…?」

その時の気持ちを思い出したのだろう。七瀬さんは苦々しい表情で唇を噛んだ。

「なんやこれ、変わったお味やねぇ」

義母はピクリとも表情を変えず、真顔のままそう呟いたという。

変わった味…?

何か変なものを入れてしまったのかと七瀬さんは慌てたが、しかし実家にあった味噌と出汁パックを使って作ったのだ。変な味になどなるわけがない。

この義母の発言がいわゆる京都特有の遠回しな嫌味で、つまりは「美味しくない」と言っているのだと理解したのは、それからしばらく経った後、京都生まれ京都育ちの友人とランチをした際だったという。

「中華を食べている時だったかな。最後に出てきたデザートの杏仁豆腐が、正直あんまり美味しくなくて。その時、友人が言ったんです。これ、変わった味やねって。それでわかりました。友人も、あの時の義母も、美味しくないって言っていたんだって」

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