「悠々自適生活のはずだったのに…」12歳年上の開業医と結婚した女の誤算とは

そう話す彼女が視線を向ける車のカバーを良く見てみると、確かにその上には埃がしっかりと乗っていた。

「結婚して間もない頃、主人には夢があり “いつかいい家に住み、いい車に乗り、そして世界中を旅するのだ”とよく口にしていました。主人の父は一般的な会社員で、周囲の医師家系の同級生とは違い余裕のない生活でした。そして今、ようやく夢を十分に叶えるだけの地位と財産を築きました。いい家にいい車、お金に一切困らない生活を手に入れました。でも今は、正直なところ応援する事を躊躇しているんです」

下を向く彼女のまつ毛が、小さく震えたように見えた。

「主人が仕事をすればするほど、事業は大きくなっていく。そしてやりたい事が増え、自分がやらねばならない事が増えていく。人に任せるという事をしたがらない主人は、今そのスパイラルの中で、自分の首を絞めているように見えて仕方ありません」

仕事をしている以上、特に自身の事業であるならば、何事にも代えられない喜びや充実感があるだろう。更に事業が上向きで拡大しているならば尚更だ。

「主人は開業当初、ロータスエリーゼという小さくて可愛い外車に乗っていました。医院を移転し規模を拡大した辺りから、スーパーカーと言われるような車に乗るようになり、そこから車関係の友人の幅が一気に広がりました。医院以外の事業を始めるきっかけになった方達とも出会いました。その友人達から様々なパーティやイベントに誘われ、国内外色々と遊びに行きました」

その車仲間にはチャーター機を気軽に使用する友人もおり、皆で一緒に海外のゴルフ場に行ったりカジノに行ったりと楽しんでいたという。

「今思うとその頃が一番、主人とのプライベートの時間を楽しんだ時期だったように思います。忙しくなるにつれ、そのような時間は徐々に減り、納車された車で近隣をドライブするくらいになりました。ここ数年は、足車以外殆ど乗る事もありません」

ここにある車の半分以上が、新型が出る度にディーラーからとりあえず納車してもらったもので、数年放置された挙句に下取りに出され、次の型に変わるだけだという。

「いったいこの生活を何歳まで続けるつもりなのか…。身体が壊れない限りきっと彼は立ち止まらない。私の父のように」

彼女の父は、長らく病院にその身体を横たえているという。

「小さな税理士事務所をビルになるまで一代で作り上げた父は、事務所を継ぐ予定になる兄になかなか仕事を任せる事ができず、常に経営と現場の第一線に立っていました。でも、2年前に63歳という年齢で脳梗塞に倒れ、二度と自力で起き上がれない状態になってしまいました。主人も私の父の姿を見ているので、これで少しは先の事を考えてくれるかもしれないと思いましたし、そう私からも話をしました。でも今の所、彼には何の変化もありません」

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