新橋ストーリー:もう35歳? まだ35歳?旧友との再会で明らかになった価値観のズレとは?


「ここの前菜の自家製豆腐、最高なんだ」

そう言って笑った櫻井のチョイスに感謝して、僕たちはまず瓶ビールを頼んだ。

「この前、あんな所でヒデとばったり会うなんて、マジで驚いたよ」

そう、今夜のきっかけは1か月くらい前。僕が銀座の中央通りで櫻井を発見したことだった。

僕が取引先の大手デパートから出てきた時、目の前のガードレールに座り、良く通る声で笑いながら電話をしている男がいた。それが櫻井だったのだ。

彼が電話を切るのを待って話しかけると、櫻井はまるで信じられないものでも見たかのように目を大きく見開き、いきなりハグしてきた。

久々の再会を大げさに喜び、バンバン僕の背中を叩く櫻井をとりあえず自分から引き離して、簡単に近況を報告し合った。

櫻井と僕は同じ大学の同級生で、同じ音楽サークルの仲間だった。お互いにギター(櫻井)とベース(僕)が趣味で、好きなバンドも同じ。

出会ったその日から僕のことを「ヒデ」と呼ぶ櫻井とは、性格は真逆だったが、学園祭で一緒にライブもやったし、全国の音楽フェスにも一緒に行った。時々2人で飲みに行くこともあった。そんな時は朝まで音楽談義。

あのギタリストのリフが最高、あの新譜は聞いたか? そんな話だけで、朝まで語れていた時代が懐かしい。

そんな僕らが疎遠になったのは、就職活動を始めた頃だった。お互いに社会人になってからは、FBで繋がっていたものの、殆ど音信不通。

ここ数年で会ったのは、仲間の結婚式くらいだったと思う。

銀座での突然の再会の後、近々2人で飲もうぜ、と櫻井は言ったけれど、お互いに次のアポの時間が迫っていて、携帯番号を聞かずに別れてしまったため、特に期待もしていなかった。

しかし櫻井から、FBのメッセンジャーで連絡が来て、今日の日取りが決まったのだ。大学卒業以来だから、12年ぶりのサシ飲みになる。僕は素直に、その気持ちを口にした。

「正直、櫻井が本当に連絡くれるとは思わなかった」

「ひどいな。俺が口だけだと思ってたってこと?」

「そんなんじゃないけどさ。何かあるだろ、そういうことって。社会人になると、今度また、ってのが永遠に来ないってパターンとかさ」

ああ、社交辞令ってやつね、と櫻井が言ったタイミングで、お造りが運ばれてきた。それに合わせて日本酒を頼む。

「これに合わせて、おすすめで!」

▶Next:5月24日 木曜更新予定
出された日本酒に対して櫻井がとったある行動に、ヒデは微かだが違和感を感じた……。

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この記事へのコメント

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No Name
SL広場から烏森口見えないけどなー⤵
2018/05/23 08:5511返信1件
No Name
なにこれ。日本酒のPR小説でいいのでは?
2018/05/23 07:0010返信1件
No Name
大手都市銀行、の響きが昭和感漂っててなんか懐かしい。。。今だと大手じゃない都銀って、どこになるの?
2018/05/23 09:055返信2件
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