これまで見知った食材が
まるで別物に感じられる
素材のポテンシャルを
極限まで引き出す究極の料理

「天ぷらの本質は蒸し料理ですよ」。
調理の際の厳しい眼差しから一転、話をするときの表情はいつも朗らか。
これが日本一の天ぷら職人と呼ばれる近藤文夫氏の姿だ。
氏の言葉を解釈すると、天ぷらとは熱と水分で食材の旨味をうまく引き出す蒸し物。
衣の中にその旨味を封じ込め、丸ごと味わう贅沢過ぎる料理だ。

『天ぷら近藤』では野菜の天種が豊富。
元来、江戸前の天ぷらといえば魚介が中心だったが、積極的に野菜を使ってその常識を塗り替えた。
分厚かった衣をぎりぎりまで薄くし、食材の色や香りを引き立てたのも氏が先駆け。その型破りな発想がいつしか基準となり、世界中の美食家から注目される存在となった。

この店で得られる悦び。
それは、よく見知ったはずの食材がまるで別物に感じられるほどの、濃縮された味や風味が楽しめることだ。
たとえば飴細工のように掻き揚げられた人参の驚くべき甘み。
白身魚の天ぷらのほっくりとした食感や、上品な香り。そして旬の食材が持つ自然の風味が、極限まで引き出される。

しかし、それは食材が見せる一瞬の輝きでもある。
油の爆ぜる音を聞きながら、揚げ時を見極めるのが『天ぷら近藤』の技だ。
代表作の「さつま芋」の天ぷらも然り。まるで切り株のように太い、さつま芋の火の通りを察する名人芸。ただ一重に最高のものを食べさせたい、無垢な願いがそれを可能にする。
お伝えいただければ幸いです。