大人の色香漂う西麻布に佇む食堂
ガラス張りの外観から郷愁が滲み出る
酸いも甘いも噛み分けたシェフが供する
繊細で武骨なビストロ

西麻布交差点から一本裏手の道を進むと、ガラスファサードが印象的な店が現れる。隠れ家的なこのエリアで、独特の存在感を放っているのが、ここ『帝國食堂』だ。客船で使用されていたというアンティークのドアにも、センスの良さが伺える。
店名からはイメージしづらいが、ここは深夜まで本格ビストロの味が楽しめる。
「気軽に立ち寄れるフランス料理店」という想いを込め、敢えて”食堂”と冠した。

素朴でノスタルジックな内装は、訪れる人々を温かく迎え入れてくれる。持ち主によって大切に使われてきたアンティークの照明や本棚が、この店の懐古的な雰囲気に一役買っている。
カウンターに立つシェフ 横田浩丈氏は、正統なフレンチの学校を卒業した後、フレンチだけでなくイタリアンでも修行。星付きのレストランやケータリング、キッチンカーでの移動式販売も経験するなど、何とも多様な経歴の持ち主。

メニューにはビストロらしい料理名が並ぶが、定番と侮るなかれ。横田氏の手にかかるとそれは全くのオリジナル料理となる。豊富な経験を惜しみなく活かし、『帝國食堂』の味へと昇華させているのだ。
メインディッシュのほとんどが肉料理。スペシャリテのハンバーグは合挽肉1kgに対し、卵1個と少量の牛乳、バゲットのパン粉のみ。
たっぷりとソースがかけられた200gほどのハンバーグは、シンプルな盛り付けで厚みがあり、みちみちとした食感が楽しい。

肉汁は使わずフォンドボーと細かく切ったバターに赤ワインを入れ、低温でじっくり鍋を回しながらとろりとするまで丁寧に煮詰めて作られるソース。
ハンバーグを覆い尽くす芳醇な香りと味に、幸福感さえ覚える。この料理は、まさにソースが主役なのだ。
クラシックでありながら他に類を見ない横田氏の料理は、“通い続けたい”と思わせてくれる。
お伝えいただければ幸いです。