SPECIAL TALK Vol.29

~“自分はどのように生きたいか”を真剣に考えるには知らない世界に自分をさらし、経験し、考えることが大切~

金丸恭文氏 フューチャー株式会社 代表取締役会長兼社長

大阪府生まれ、鹿児島県育ち。神戸大学工学部卒業。1989年起業、代表取締役就任。規制改革推進会議議長代理、未来投資会議構成員、働き方改革実現会議議員、経済同友会副代表幹事、NIRA代表理事を務める。

気仙沼に産業を手編みニットで地域に貢献

金丸:そこから「気仙沼ニッティング」につながるんですね。そもそもこの事業のアイデアは、どこからきたんですか?

御手洗:コピーライターの糸井重里さんと、東北のためになにができるかお話ししているときに、「気仙沼で編み物の会社をやりたいんだけど、たまちゃん、社長やんない?」と(笑)。

金丸:糸井さんとの接点は?

御手洗:ブータンにいた頃です。糸井さんが私のツイッターやブログを見ていてくださり、交流が始まりました。

金丸:〝編み物〞という糸井さんの発想がユニークですね。

御手洗:そうですね。震災後の気仙沼は、建物も流されている状況です。でも編み物は、毛糸と編み針さえあればどこでも始められる。それに、漁師町である気仙沼は、編み物ができる人も多かった。私は「東北に、働く人が誇りを持てる仕事をつくりたい」と思っていたのですが、編み物の会社を起ち上げ、地域の人たちがお客さんに本当によろこばれるものを編んで届けていくことができれば、それができるかもしれないと思いました。それで起ち上げたのが、気仙沼ニッティングです。

金丸:どのような商品を販売しているのですか?

御手洗:最初に出した商品が、オーダーメイドのカーディガン「MM 01」です。アラン模様で、お客さんのサイズにあわせて一から編み上げます。これが15万1200円です。いま一番人気のモデルは「エチュード」というレディメイドのセーターで、7万5600円です。

金丸:高価格帯ですね。

御手洗:そうですね。1着のセーターを手編みするには、標準的なもので50〜60時間かかるんです。それだけの仕事をしてくれる編み手さんたちに対し、まっとうに編み代を支払うと、どうしてもこれぐらいの価格にはなります。でも「編むのに時間がかかるので、高価格です」ではお客さんには通用しません。胸を張って「これは、私たちが最高にいいと信じられるセーターです」とお届けできるように、あらゆることをしています。たとえば、この「MM 01」と「エチュード」のためだけに、羊毛をスペインとイギリスから輸入し、オリジナルの毛糸をつくっています。市販の毛糸では、これだけ模様がくっきり浮かび上がり、かつ軽くて着やすいというセーターは編めないんです。

金丸:セーターは長く使えるし、すごく納得感の得られる買い物になりそうですね。

御手洗:私は冬になると、ほぼこのセーターを着ています。毛糸も皮のように、どんどん自分に馴染んでくるので、1年ごとの変化が楽しいです。

金丸:社長になって4年目ですが、将来の目標を教えてもらえますか?

御手洗:この会社を、ちゃんと地域に根づいて栄えていく会社に育てたいと思っています。目先の利益を追うのではなく、これから2代目、3代目、4代目…と続いていってもずっと繁栄し続ける、そういう骨太な会社のたしかな基礎を築くことが、創業社長である自分の役目だと思っています。

金丸:復興のためには、地域に産業を興して仕事を作り、被災した人たちが自分で稼いで自立できるようになることが大事です。気仙沼ニッティングは、本当の意味での復興支援だと思います。

御手洗:ありがとうございます。会社を育てることとあわせて、事業承継も今後の課題です。そして事業承継は、うちの会社だけでなく、日本中の中小企業の課題でもある。「なるほど、そういうやり方があるのか」と新たな道を示すことができたらいいなと思っています。でも、まだまだこれからですね。

大切なのは、どんな職業に就きたいかよりどう生きたいかを考えること

金丸:自分で考え、行動し、切り拓いてきた御手洗さんだからこそ、若い世代に伝えたいメッセージはありますか?

御手洗:私が母から言われて、大切にしている言葉があります。小学6年生のとき、学校で「将来何になりたいか」をよく聞かれました。でも私は自分が何になりたいのかわからず途方に暮れて、母に相談しました。すると母が「それは質問がよくないね。考えなくていいよ」と。どういうことか聞くと「小6のあなたが知っている職業なんて限られているんだし、大人になってもその仕事があるかどうかもわからない。それよりもあなたが考えなくてはいけないのは〝自分はどう生きたいか〞ということなのよ。ゆっくり時間をかけて自分の芯を育てていきなさい」と。そしてそのためには、いろんな世界に自分をさらし、経験して、考えることが大切だと言われました。それが、すごく腑に落ちたんです。

金丸:お母様が実に立派です。

御手洗:こういう母だったので、自分でものごとを考えるくせがついたのかもしれません。

金丸:御手洗さんを小さい頃から海外に送り出していたのも、こういう考えが根底にあったからなんですね。

御手洗:そうですね。感謝しています。

金丸:興味深いエピソードが尽きませんね。御手洗さんが今後どのような経営者になっていくのか、本当に楽しみです。本日はありがとうございました。

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